不動産投資において、建物の耐用年数を確認しておくことは非常に重要です。
耐用年数によって節税効果は異なりますし、ローンの借入にも関わるためです。
しかし、建物は耐用年数が過ぎても利用できるので、耐用年数はあくまでも会計上の概念として把握しておくべきものです。
では、不動産投資において耐用年数はどのように考えて取り扱うべきなのでしょうか?
この記事では、耐用年数と不動産投資の関係と、耐用年数を経過した建物へ投資をするメリットについて詳しく解説していきます。
建物の法定耐用年数とは?
法定耐用年数とは、減価償却資産(固定資産)を使用できる期間のことです。
建物は時間の経過とともに価値がなくなっていきますが、耐用年数とは「建築から価値がなくなるまでの年数」のことです。
耐用年数の範囲内で毎年減価償却費を計上し、毎年建物の価値を減らしていきます。
例えば、耐用年数が20年と決められた建物であれば、建築から20年後には、法的・税務的には建物の価値は0円になります。
建物の耐用年数は、建物の構造によって異なります。
建物の構造別の耐用年数と、減価償却費の計算方法を解説していきます。
建物構造別の法定耐用年数一覧
建物の耐用年数は構造や用途によって異なります。
アパートやマンションは住居に分類され、住居の耐用年数は以下のとおりです。
軽量鉄骨造(骨格材肉厚が3mm以下の場合) | 19年 |
木造 | 22年 |
重量鉄骨造 | 34年 |
鉄筋コンクリート造 鉄骨鉄筋コンクリート造 |
47年 |
鉄筋コンクリートのアパートの場合、耐用年数は47年と決められています。
法定耐用年数とは
法定耐用年数とは、建物などの固定資産を通常の用途・用法で使ったときに、本来期待する役割を果たすとみなされる期間のことです。
たとえば木造住宅の法定耐用年数は22年ですので、国は「普通に使っていたら22年は使用できるだろう」と考えて、22年と定めています。
しかし「築30年」など、法定耐用年数を過ぎても使用できる木造住宅は多数あります。
法定耐用年数を過ぎても建物を使用することはできますが、それは管理状態、使用状態によって左右されるのが実情です。
つまり、人によって使用できる期間が異なるので、建物を使用する人に合わせて耐用年数を個別に決めていたら、課税の不公平が生じてしまいます。
そこで、国は、課税の公平性を担保するために、一律に耐用年数を定めているのです。
法定耐用年数は、減価償却費の計上と、建物の税務上の価値の算定を公平におこなうために国が決めた年数だと言えます。
減価償却費の計算方法
減価償却費は基本的に次の計算式で算出します。
減価償却費=建物金額÷減価償却期間(耐用年数)
例えば、建物の価格が2,200万円、耐用年数が22年の場合、2,200万円÷22年=100万円です。
この場合、毎年100万円ずつ減価償却費を計上すれば22年後には建物の価値はゼロになります。
なお、減価償却期間は以下のように計算します。
・法定耐用年数よりも築年数が短い場合
減価償却期間=(法定耐用年数-築年数)+築年数×0.2
・法定耐用年数よりも築年数が長い場合
減価償却期間=法定耐用年数×0.2
法定耐用年数が過ぎた物件の耐用年数は、法定耐用年数の2割(5分の1)の期間で減価償却すると理解しておきましょう。
減価償却費には節税効果がある
不動産投資に「節税効果がある」といわれる理由は、不動産投資では減価償却ができるためです。
減価償却費は現金の流出を伴わない費用です。
例えば、100万円の減価償却費を計上する際の仕訳は以下のようになります。
借方 | 貸方 |
---|---|
減価償却費 1,000万円 | 建物 1,000万円 |
1,000万円という費用を計上し、建物の価値を1,000万円減価させている仕訳になります。
つまり、費用は発生しているものの現金の支出がありません。
多くの減価償却費を計上すれば、それだけ不動産所得を圧縮できます。
例えば、家賃収入が600万円、経費が100万円、減価償却費が1,000万円であれば、不動産所得は-500万円です。
実際に600万円の家賃収入に対して100万円の経費を支出しているだけなのに、減価償却費のおかげで会計上は赤字にできます。
本業の所得が1,000万円で、不動産所得を500万円の赤字にできれば、課税される所得は500万円になります。
減価償却費が多ければ多いほど、課税される所得が圧縮されるので、「不動産投資は減価償却費があるので節税効果がある」といわれるのです。
参考:建物の法定耐用年数とは?構造別の年数一覧と減価償却費の計算ツール
耐用年数を経過した建物に投資するメリットデメリット
耐用年数を経過した建物に投資をする際は、メリットとデメリットがはっきりと分かれるので注意が必要です。
減価償却費による節税効果が大きい
耐用年数を経過した建物は減価償却費による節税効果が非常に大きいという点がメリットです。
法定耐用年数を経過した建物は、「法定耐用年数×0.2」で減価償却をおこなうためです。
たとえば、木造建物であれば、22年×0.2=4. 4年で減価償却をおこないます。
2,000万円の建物であれば、2,000万円÷4.4=約450万円の減価償却費が1年間に計上できます。
一方、2,000万円の新築の木造建物の場合には、2,000万円÷22年=約91万円しか減価償却費を計上できません。
法定耐用年数が経過した建物は、減価償却期間が非常に短くなるので、1年間に計上できる減価償却費が大きくなり、所得を圧縮する効果が非常に高くなります。
もちろん、減価償却期間終了後には節税効果はまったく無くなるので、短期間だけしか節税効果はありませんが、「退職までの短期間だけ節税したい」という方は法定耐用年数を経過した建物へ投資することが有効です。
ローンを借りにくいので注意
法定耐用年数を過ぎた物件はローンを借りにくいという点が最大のデメリットです。
不動産を購入する際のローンは、建物の耐用年数までしか融資しないのが基本的な金融機関の決まりだからです。
たとえば、木造建物であれば、最大で22年ローンしか組めません。
築年数が5年の建物であれば、22年–5年=17年が借入期間の限度です。
ただし、ローンの審査では収益性の高さも重視されるので、耐用年数が過ぎていても入居者を確保できている収益性の高い物件であれば、借入ができる可能性があります。
また、ある程度の頭金も用意しておいた方がよいでしょう。
いずれにせよ、節税効果の高い築年数が経過した物件ほど、ローンを借りにくい点には注意が必要です。
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法定耐用年数が経過した建物を維持するポイント
法定耐用年数はあくまでも、課税の公平性を確保するなどの理由で国が決めた使用年限にすぎません。
耐用年数が経過した建物も管理状態を良好に保てば、建物は使用し続けることが可能です。
鉄筋コンクリートの建物はしっかりとメンテナンスをすれば100年程度は使用できると言われています。
- 定期的にメンテナンスやリフォームをする
- 専門家に依頼して家の点検を行う
定期的にメンテナンスやリフォームをすることで、建物の価値は維持できます。
部屋の中で言えば水回りなどは定期的にメンテナンスをすれば異常箇所を早めに発見できますし、リフォームをすることによって価値を保つことは可能です。
また、外壁も10年に一度程度は塗装をすることで、建物全体の劣化を防ぐことができます。
また、ホームインスペクションなどを定期的に実施して、建物の点検を定期的におこなうことも重要でしょう。
専門家に建物の隅々まで確認してもらうことで、目に見えない建物の不良箇所やリスクを早期に発見できるので、早期修繕や予防することができます。
法定耐用年数を過ぎてもしっかりとメンテナンスをすることで、建物の価値は維持でき、安定した家賃収入を確保できるでしょう。
参考:住宅の耐用年数とは?耐用年数が過ぎても長く住み続けるためのポイントを解説
耐用年数や減価償却期間が経過した建物は、減価償却費による節税効果はありませんが、固定資産税も格安になり、収益性は高くなります。
低コストで長く不動産に稼いでもらうためにも、法定耐用年数を過ぎた物件は定期的なメンテナンスと早期の修繕で、できる限り長期間使用しましょう。
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まとめ
国が定めた建物を使用できる期間を「法定耐用年数」と言います。
減価償却費は法定耐用年数によって計算し、減価償却費を多く計上できればできるほど、不動産投資における節税効果は高まります。
そして、耐用年数(減価償却期間)が短い建物ほど、多くの減価償却費が計上できるので、節税目的で不動産投資をするのであれば、耐用年数(減価償却期間)が短い建物は投資するのがよいでしょう。
ただし、金融機関のローンは耐用年数(減価償却期間)が短いほど審査が厳しくなります。
頭金を多く用意するか、収益性の非常に高い物件を選択するなど、あらかじめ準備が必要です。
なお、建物は耐用年数が経過しても使用することは可能です。
建物を長く使用するためには日頃のメンテナンスと細かな修繕が重要になるので、耐用年数を過ぎた建物を所有する場合には、定期的なメンテナンスを欠かさないようにしてください。