親が認知症となった場合、所有している不動産の売却はできるのでしょうか。
子どもが親に代わって売ることはできませんが、成年後見人を選してもらえれば売却は可能です。
本記事では、認知症の親が所有する不動産を売却する方法について解説します。
売却可能な方法である成年後見制度や家族信託について解説します。
親が認知症で、所有する不動産についてお悩みの人は最後までお読みください。
認知症の親の不動産は勝手に売却できない
不動産売却を行うには、「意思能力」が必要です。
意思能力を有していない場合、法律行為は無効であると民法で定められています。
本人以外の者が「代理」として売却することは可能でしょうか。
親が認知症になった時に発生しうる不動産売買トラブル事例とあわせて紹介します。
不動産売却のできない理由は意思能力を有していないため
認知症等、意思能力を有していないと判断された場合、不動産売却は無効となります。
ただし、認知症の疑いがあるものの、意思能力を有していると考えられる場合、不動産売却は有効となる可能性があります。
不動産の売買は、契約が伴う法律行為です。
法律行為を行うには、意思能力が必要です。
意思能力とは、法律用語で、自分がした行為の結果を判断できる能力をいいます。
通常、10歳になると意思能力を持ち合わせると考えられています。
親が認知症になった時に発生しうる不動産売買トラブル事例
親が認知症となった場合、発生する恐れのある不動産売買トラブルとして、以下の事例があります。
- 介護費用を捻出するために子どもが親の不動産を売却
- 親が新しく居住する不動産を子どもが親名義で購入
認知症になると、デイサービス費用や医療費といった、介護に関する費用が増えます。
より専門的なサービスやサポートを受けるためには、より多くの費用が必要です。
介護費用捻出のため、子どもは親名義の不動産を売却することを考えることもあるでしょう。
しかし、親名義の不動産は子どもが勝手に売却することはできません。
バリアフリー化した住居に住み替えるために子どもが親名義の不動産を売却し、新居を購入することもできません。
売却同様、購入も法律行為であり、親の意思能力が必要です。
【一択】認知症の親の不動産売却には成年後見制度の活用が有効
認知症により親に意思能力がない場合、不動産の売買はできません。
親の不動産の売却を行うためには、認知症の親に代わって法律行為が行える「成年後見制度」があります。
ここでは、成年後見制度について解説します。
成年後見制度とは意思能力がない人を法的にサポートする制度
成年後見制度とは、ひとりでものごとを決める際に不安のある人を法的に保護し、本人の意思を尊重した支援を行う制度です。
成年後見制度には、以下の2つの種類があります。
- 法定後見制度
- 任意後見制度
法定後見制度
法定後見制度とは、認知症や障害の判断能力に応じて「補助」「保佐」「後見」の3つの種類があります。
成年後見人等(補助人・保佐人・成年後見人)は家庭裁判所によって選ばれます。
【法定後見制度の種類と対象】
種類 | 対象 |
---|---|
補助 | 重要な手続き・契約の中で、ひとりで決めることに心配のある人 |
保佐 | 重要な手続き・契約などを、ひとりで決めることに心配のある人 |
後見 | 多くの手続き・契約などを、ひとりで決めることが難しい人 |
任意後見制度
任意後見制度とは、認知症等に備え、あらかじめ本人自身が事前に選んだ人(任意後見人)と契約(任意後見契約)を交わし、代わりに行ってもらいたいことを決めておく制度です。
任意後見契約は、公正証書によって結ばれるのが一般的です。
本人が一人で決めることが不安に感じた場合、家庭裁判所に任意後見後見監督人を選任の申立てを行い、任意後見監督人の選任により、任意後見契約の効力が発生します。
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成年後見制度のメリット・デメリット
ここでは、成年後見制度のメリットおよびデメリットについて解説します。
メリット
成年後見制度を利用するメリットとして、以下の点が考えられます。
- 認知症などの理由で意思能力がない、あるいは疑わしい場合でも不動産を売却可能
- 不当な契約等の防止ができる
通常、不動産売却は認知症を患っている場合、意思能力がないためできません。
しかし、成年後見人を選任することで、不動産売却が可能となります。
ただし、居住用不動産を売却する場合、家庭裁判所の許可が必要です。
認知症等により、判断能力が低下していたり、喪失していたりすると、不当な契約を結ぶことで財産を失ってしまうリスクがあります。
成年後見人の選任で、不当な契約を結ぶことを回避できます。
仮に本人が単独で契約を結んだ場合でも、取り消すことが可能です。
デメリット
一方、成年後見制度を利用するデメリットは次の通りです。
- 成年後見人に報酬を支払う必要がかかる
- 手間がかかる
弁護士や司法書士等、専門家が成年後見人となった場合、報酬を支払うことが必要です。
管理財産により異なりますが、毎月2~6万円程度の費用が、本人が死亡するまで必要です。
成年後見制度を利用する場合、家庭裁判所に申立てを行います。
その際、申請書類に加えて戸籍謄本や診断書等、さまざまな書類を添付しなければならず、手間がかかります。
成年後見人制度を活用した不動産売却の流れ
成年後見人制度を活用した不動産売却は以下の通りです。
①家庭裁判所で成年後見制度の申立て
必要書類を取得し、申立書類を作成します。
申立てを行う家庭裁判所は、親の住民票地を管轄している家庭裁判所です。
開始等申立書は、各家庭裁判所のHPよりダウンロードが可能です。
郵送あるいは直接窓口に提出します。
②面接・審査
申立てを行った後、裁判所は審査し、面接を行います。
通常、面接は申立人および後見人等候補者です。
保佐人・補助人の場合、被後見人も同行します。
面接後、裁判所は審査を行います。
③審判
裁判所は、審査が終わると、審判を下され、結果は郵送で確認できます。
後見人は選任された旨を登記されます。
④不動産売却の許可を得る
被後見人が所有する居住用不動産を売却する場合、裁判所の許可を得る必要があります。
法定後見人がいても勝手に売却できません。
裁判所は、売却理由や、売却金の資金使途についても確認し、本当に必要でなければ許可しません。
ただし、居住用不動産でない不動産を売却する場合は、裁判所の許可は不要です。
⑤不動産会社と媒介契約を交わし買い手を探す
裁判所から許可が下りると、不動産会社と媒介契約を締結します。
不動産会社選びにおいては、複数の不動産会社に査定依頼を行い、頼りになりそうな不動産会社と契約をすることがおすすめです。
売買契約・決済・引渡し
買い手が見つかると、売買契約を結びます。
売却代金を決済し、引渡しを行います。
判断能力がある場合には家族信託
任意後見制度同様、本人に判断能力がある場合に「家族信託」の利用が可能です。
ここでは、家族信託について、および手続きの流れやメリットについて紹介します。
家族信託とは?
家族信託は、「家族を信じて託し」、不動産や預貯金等の管理・処分等を任せる契約を結んでおく仕組みです。
資産を所有する人が、将来的に認知症や老後生活、あるいは介護が必要になった時など、万が一に備えておくのに有効です。
なお、当初、財産を託す人を「委託者」、信託財産の名義を受け持ち、管理・運用する人を「受託者」、信託財産の「財産権」を持つ人を「受益者」といいます。
親子間では、親が「委託者」「受益者」、子が「受託者」となります。
家族信託の流れ
家族信託の流れは以下の通りです。
- 後々トラブルが発生しないよう、家族で話し合う
- 信託契約書の作成を行う
- 信託契約書を公証役場で公正証書化する
- 信託財産を「受託者」に名義変更する(信託登記)
- 金銭信託する銀行口座を決める
- 信託による財産管理のスタート
家族信託を利用するメリット
家族信託を利用するメリットとして、以下の点があります。
- 柔軟な財産管理が可能
- 認知症による資産凍結に対応可能
- 体調や判断能力に左右されずに財産管理が可能
成年後見制度では、家庭裁判所への定期的な報告や成年後見人への報酬負担が続きます。
成年後見人ができることは、本人にとってプラスになることだけです。
家族信託では、信託契約書で親は財産管理について希望や方針について記しておけます。
認知症等により、意思能力が喪失したした場合でも、信託契約書内の希望や方針に反しなければ、適切な時期に受託者である子どもが不動産等財産を処分することが可能です。
資産凍結に対応でき、柔軟な財産管理ができます。
不動産売却を上手に行うには
親の不動産を上手に売却する方法として、次の2つのポイントがあるので紹介します。
- 親が認知症になる前に家族で話し合い
- 不動産売却に必要は適切な価格設定と市場分析が必須
親が認知症になる前に家族で話し合い
親が認知症になる前であれば、親の不動産について、家族で話し合いをすることが可能です。
コンタクトを密に取り、親の意向を確認・尊重しながら、今後について検討しましょう。
話し合いがまとまれば、親の不動産に関しての考えや意向等について、契約書(任意後見制度の場合は任意後見契約、家族信託の場合は信託契約書)に織り込みましょう。
契約書に明記することで、スムーズな不動産売却が可能となります。
不動産売却に必要は適切な価格設定と市場分析が必須
不動産売却には、市場価値を理解し、適切な売却価格を設定することが重要です。
相場からかけ離れた価格を提示すると、買い手がつかなかったり、売主(親)が損をしたりします。
不動産地価の情報は、国土交通省のWebサイト「不動産情報ライブラリ」で確認できますので、相場を把握するのに役立ててください。
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まとめ
親が認知症である場合、不動産売却を勝手に行うことはできません。
なぜなら、意思能力を有していない場合、法律行為である不動産売却は無効であるからです。
不動産を売却する場合、成年後見制度の活用が一般的です。
成年後見制度には「法定後見制度」「任意後見制度」があります。
親がすでに認知症である場合、法定後見制度を利用することになります。
法定後見人をつける場合、家庭裁判所の申立てを行い、選任の判決が必要です。
親の不動産が居住用不動産である場合、裁判所の許可を取る必要があるので注意しましょう。
親が認知症になる前であれば、「任意後見制度」や「家族信託」の活用が可能です。
事前に親の意向が反映できるので、おすすめです。
親に意思能力がある場合、そうでない場合とで、不動産売却の方法が異なります。
本記事を参考にしていただければ幸いです。
参考
引用元:民法 | e-Gov法令検索
引用元:厚生労働省|成年後見はやわかり