「実家を親から相続したけれど、自分は住めないからどうしよう」
「やっぱり古家(ふるや)付き土地は、家を解体しないと売却できないの?」
「古家付き土地を少しでも高く売るにはどうすればいいのか」
そのままでは人が住めない古い家が残った土地、それが古家付き土地です。
この記事を読んでいる人は、古家付き住宅を何とかしたい、古家付き住宅のことを知りたい、そんな理由で検索したかもしれません。
そこで、今回は古家付き住宅について銀行員が解説します。
古家付き土地の基本事項からメリット・デメリット、そして上手に売却する方法についてわかりやすく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
- 古家付き土地とは
- 古家付き土地の売却方法は2つある
- 古家付き土地売却の費用で重要なのは「解体費用」と「税金」
- 古家付き土地売却のコツ
- 古家付き土地を売却するときの注意点
古家付き土地とは
古家(ふるや)付き土地とは、残存価値がなく、取り壊すかそのままにするしかない空き家が残っている土地のことです。
土地の上に一切の建築物がない更地、に対応する言葉として用いられています。
なお建物の部分「古家」についてもう少し詳しく説明すると
「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態」(参考出典参照)となります。
シンプルに表現するなら古家付き土地とは古すぎて誰も住めない空き家が立っている土地と言ったところです。
(*ここでの空き家は居宅以外に店舗、事務所など建物全般を指します また公的文書などでは「空家」とも表現しますが、この記事では空き家で統一します)
以下引用した状態がイメージしやすいと思います。
(引用にある「特定空き家」は後半で解説します)
<筆者前略>
「特定空家等」は、この「空家等」のうち、法第2条第2項において示すとおり、以下の状態にあると認められる「空家等」と定義されている。
(イ) そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態
(ロ) そのまま放置すれば著しく衛生上有害となるおそれのある状態
(ハ) 適切な管理が行われていないことにより著しく景観を損なっている状態
(ニ) その他周辺の生活環境の保全を図るために放置することが不適切である状態
【参考出典】
国土交通省/「特定空家等に対する措置」に関する適切な実施を図るために必要な指針(ガイドライン)
古家と中古住宅の違い
古家に似た言葉に「中古建物」があります。
建物の中には、手直しすれば中古住宅として売却可能な家があるかもしれません。
しかしこの記事は、利用価値のない古家付き土地の売却について述べるので、中古住宅には触れません。
そこで2つを区別するため、下記のようなイメージで読み進めてください。
【古家付き土地】→この記事で解説
(例)両親が住んでいた田舎の実家
両親が亡くなり相続で自分のものとなったが、古くてとても住めないし、自分にも家があるのでそのままにしている
【中古住宅】→この記事では触れません
(例)自分がいま住んでいる家
転職して心機一転、新しい土地でスタートすることにしたこの家も築15年だが、それなりの値段で売れそうだ
用語解説【耐用年数】~古家と中古住宅を仕分ける「ものさし」
建物が利用可能か不可能か?という判断は、実際の状態ももちろん重要ですが、建物の評価を考える目安として耐用年数という「ものさし」があります。
耐用年数とは建物を評価する際に用いる基準です。
建物の種類(居宅、店舗、工場など用途のこと)や構造(木造、鉄筋コンクリートなど建物の材質構造のこと)により年数が決められています。
壊れにくいほど、燃えにくいほど(例・木造より鉄筋コンクリート造)耐用年数は長くなります。
一般に固定資産税など税金の計算で使う「法定耐用年数」があり、例えば居宅の耐用年数は木造なら22年、鉄筋コンクリート造なら47年(*)となっています
(*実際の耐用年数は細分化され、また適用される条件もある・参考出典参照)
鉄筋コンクリート造の居宅で築25年なら(築後25年<耐用年数47年)でまだ価値が残っていることになります。
しかし木造で築25年経っていたら(築後25年>耐用年数22年)となり、価値が残っていないと見なされるのです。
このように耐用年数を超過して価値が残っていないほど古い建物が古家であるとも言えます。
なお銀行など金融機関が不動産担保の評価で建物の価値を考える場合は「再調達原価」という尺度を使います。
これは「その建物をもう一度新築するにはいくらかかるのか」という計算で、1㎡あたりいくらという単価で計算します。
ここでも壊れにくく燃えにくいほど高く(木造より鉄筋コンクリート造)なります。
【参考出典・法定耐用年数】
国税庁/【参考1】主な減価償却資産の耐用年数表
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/pdf/2100_01.pdf
【参考出典・再調達原価】
国土交通省/参考資料
古家付き住宅を売却する方法① 解体せず売却
古家付き住宅には次の2つの売却方法があります。
- 解体せず売却
- 更地にして売却
以下、それぞれの内容とメリット・デメリットも説明していきます。
(*この2つは相反する内容が多く、どちらかのメリットはどちらかのデメリットといった関係です。重複する部分は「〇〇に記載」と表現していますので、該当部分をご覧ください)
まず解体せず売却する方法について、そのメリットとデメリットもあわせて解説します。
メリット
- 住宅ローンの融資対象になるので、売りやすい
- 解体費が不要
- 売れるまでの固定資産税が安上がり
デメリット
- 値切られる原因になるかも
- なかなか売れないことも
- あとになって地中から瓦礫などが出てくる可能性
メリット1.住宅ローンの融資対象になるので、売りやすい
例えば更地でも整然とした分譲用地などは問題ありませんが、草木が生い茂った土地などは、本当に建物を建てられるのか調査が必要になったり、一旦つなぎ融資(住宅ローンではないローンで、一時的に利用したあと、住宅ローンに切り替える)などになる場合もあります。
この点、もともと家がある状態なので、古家付き土地人が住む家の土地として住宅ローンの融資対象になるので売りやすい傾向があります。
メリット2.解体費が不要
取り壊さないので解体費は不要になります。
(利点以外に注意点やデメリットもあり『古家付き土地売却の費用』に記載)
メリット3.売れるまでの固定資産税が安上がり
「住宅用地の軽減措置」など税金の特例があるので、売れるまでのあいだも固定資産税が安上りで済みます。
デメリット1.値切られる原因になるかも
取り壊しをしないので、古家を解体するのは当然ながら買主になります。
そのため、解体費用分の値引きを求められる可能性は高く、ある意味避けられない部分でもあるので、売却価格を決めるときに想定しておく必要があります。
デメリット2.なかなか売れないことも
これはイメージの問題ですが、建物が古すぎると敬遠される恐れもあります。
土地探しをしている人は、同時にいくつかの候補地を比較検討するものですが、並べて考えたときに、ボロボロの建物があるとマイナスイメージが先行し選んでもらえない可能性もあるのです。
古家なのでリフォームとまでいかなくても、外から見える部分など可能な限りきれいにしておいたほうが良いでしょう。
デメリット3.あとになって地中から瓦礫などが出てくる可能性
すでに更地になっている土地では、ある程度は地面も掘り返して調査済みです。
しかし古家付き土地の場合、建物の床下や地中に、自分も知らなかった大昔の瓦礫や「工事ガラ(建築廃材など)」などが出てくる可能性もあり注意が必要です。
とはいえ取り壊さないのが大前提になっていますので、対策として「契約不適合責任」について考えることが重要です。
用語解説【契約不適合責任】
不動産取引で従来使われていた「瑕疵担保責任」に代わるものとして、民法改正(2020年4月)により規定されたのが「契約不適合責任」です。
「契約不適合」とは目的のモノ(ここでは古家付き土地)が、 契約の内容に適合していない状態を指します。
そして契約不適合があると、売主が負担すべき責任を「契約不適合責任」と表現するのです。
法律用語の説明はこのくらいにして(興味のある人は下記出典をご覧ください)
契約不適合責任とは不動産の売買で契約と違う「聞いてないよ!」という問題(以前の瑕疵)が見つかった場合に、売主が修理、代金の値引き、契約の解除などを負担することと言えます。
古家付き土地の売却では契約不適合責任の取扱いにはしっかり対応する必要があるので、『古家付き住宅を上手に売却する3つのポイント』でもう一度触れます。
【参考出典】
国土交通省/住宅業界に関連する民法改正の主要ポイント
【参考出典】
一般財団法人住宅金融普及協会/ 瑕疵担保責任から契約不適合責任へ
https://www.sumai-info.com/information/legal_knowledge_23.html
古家付き住宅を売却する方法② 更地にして売却
続いては古家を取り壊し更地として売る場合です。
メリット
- 古家の維持管理が不要になる
- 早く売れる
- あとあとのトラブルリスクがなくなる
デメリット
- 解体費がかかる
- 固定資産税が高くなる
- 再建築ができなくなる可能性も
メリット1.古家の維持管理が不要になる
取り壊してしまうので、古家の維持管理が不要になります。
「いずれ売るんだから放っておいてもいいでしょ?」
こう考える人もいると思いますが、建物は放置しておくといろいろな問題が発生してきますので、決して知らんぷりしてはいられなくなるのです。
こちらについてはそういった問題の一つ「特定空き家」を説明します。
用語解説【特定空き家】
古家を残すリスクとして「特定空き家」があげられます。
自分の古家が「そのまま放置すれば倒壊等著しく保安上危険となるおそれのある状態(前出)」などの状態だと、市町村など地方公共団体が調査して特定空き家に指定すると「空き家対策特別措置法」で規定されています。
指定されたあとに、状態を是正するよう「勧告」を受けると「住宅用地の特例措置」(後述)から除外され、固定資産税が最大でそれまでの6倍になる場合があります。さらに勧告よりきびしい「命令」となり、それにも対応しなかった場合には、最大50万円以下の過料などの罰則を受ける恐れすらあるのです。
【参考出典】
NPO法人空家・空地管理センター/空き家問題について/空家等対策特別措置法とは/特定空家とは
https://www.akiya-akichi.or.jp/what/sochihou/tokuteiakiya/
【参考出典】
政府広報オンライン/年々増え続ける空き家!/空き家にしないためのポイントは?
メリット2.早く売れる
更地だから流動性が高いと言えますし、建物がある土地より早く売れる可能性が高いのも更地です。
また新築後の建物など完成図をイメージしやすいのも更地の特徴です。
メリット3.あとあとのトラブルリスクがなくなる
更地なので地中の瓦礫の件(前出)の心配が少なくなります。
それ以外にも土壌汚染や、地盤強化などが必要な土地だったと、建物が乗っかっていることでトラブルが隠れてしまっていたというリスクが少なくなります。
デメリット1.解体費がかかる
取り壊すので解体費が必要になります。
(解体費の項で詳しく説明)
デメリット2.固定資産税が高くなる
更地とは建物がない土地なので、建物がないことで固定資産税の軽減特例措置は適用されません。(前出)
デメリット3.再建築ができなくなる可能性も
古家を壊してしまったために、新しい建物が再建築できなくなる場合もあります。
これについては次の「既存不適合」の用語解説で詳しく説明しますが、面倒だと感じる方は「更地にすると建物が建てられなくなってしまう土地がある」とだけ覚えておいてください。
用語解説【既存不適格】
既存不適格(きぞんふてきかく)とは、その建物を建築した当時には適法で問題がなかったのですが、その後の法改正などに沿っていない(不適格)になってしまった建物のことです。
法改正で結果的に不適格となっただけであり、いわゆる欠陥住宅や違法建築とは違います。
自分の古家が既存不適格だった場合、そのまま使用する場合にはペナルティはありません。
また増改築も許可を得れば可能ですが、一度取り壊して更地にすると同じ規模や構造の建物は新築できない場合もあるのです。
古家付き土地売却の費用
古家付き土地の売却で、特に重要な費用は「解体費用」と「税金」です。
費用1.解体費用
古家の解体費用相場は、おおむね以下の通りです。
- 木造:1坪あたり3~5万円
- 鉄骨造:1坪あたり5~7万円
- 鉄筋コンクリート(RC造):1坪あたり6~8万円
例)30坪の木造古家の解体費用は5万円×30坪=150万円
ただし解体する現場が山の上などでは費用が上乗せされます。
また取り壊し以外にも廃棄物処分費、粉塵や騒音防止フェンス、道路の交通整理費用などケースによって更に費用がかさむ場合があります。
費用2.税金
古家付き土地の売却の代表的な税金は譲渡所得税です。
譲渡所得税は、不動産を売却したとき利益が出た場合に発生する税金です。
一言で言えば「古家付き土地が自分のものになったときより、売却したとき(譲渡)の方が儲かっていた場合は税金がかかる」ということです。
例えば古家付き土地を相続で受け取った場合などは、当然ながらほとんど費用がかかっていないので、逆に譲渡所得税が必要になります。
【参考出典】
国税庁/税について調べる タックスアンサー(よくある税の質問)/No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
古家付き土地を上手に売却する3つのポイント
古家付き土地を上手に売るポイントを3つ紹介します。
- 残置物の取り扱いをしっかり決める
- 解体費用を下げるヒント
- 売却を邪魔する意外なモノ
ポイント1.残置物の取り扱いをしっかり決める
古家付きなので、建物の中にあるものの取り扱いについてもしっかり決めておく必要があります。
家族や自分の大切な品物などを整理して運び出したうえで、残ったもの(残置物)を自分で処理すると意外な出費になる場合があります。
そこで「残置物も含めて現状渡し」「残置物について、売却後に売主は関知しない」といった内容で売買契約を結ぶのも一つの対策です。
ポイント2.解体費用を下げるヒント
解体費用も業者により差が出ます。
ただ、安さばかり求めたため悪質業者にぶつからないよう注意も必要です。
やはり複数の業者に見積もりを作ってもらい、比較検討するのが良いでしょう。
ポイント3.売却を邪魔する意外なモノ
古家付き土地の売却では、建物以外にも売却を邪魔するモノがあります。
例えば昔からの土地では先祖の墓が敷地内にある場合もあり、売却時には移動させる必要があります。
また墓と同様に小さな祠、鳥居、お稲荷さんといった神様も同様です
これらの撤去費用はばかにならず、また撤去する以前に、これがあると売主に知られると、撤去したからと言って心理的に嫌がられて、売却の邪魔となることもあります。
まとめ
今回は古家付き土地の売却について解説してきました。
メリットもあればデメリットもある古家付き土地の売却ですが、この記事を読んで売却方法や注意点がわかり、疑問や不安が少しでも解消出来たら幸いです。
また古家付き土地の売却は不動産会社に依頼することになりますが、そういった相談のときにも、この記事で知ったことが役立つことを願っています。