名義人が複数いる「共有名義の不動産」は売却しにくいといわれています。所有している人数が多いほど権利関係が複雑になり、売却に反対する人や連絡が取れない人も出てきてしまうからです。
しかし売却せずに放置しておくと新しい相続が発生して、名義人がさらに増えてしまい手が付けられない状態になってしまいます。そのため共有名義の状態をいち早く解消するなど対処が必要です。
今回はこれまで200件以上の不動産売買を経験した私が、共有名義の不動産を売却する方法について詳しく解説を行います。
この記事を読むことによって「共有名義の不動産はどのようなもの?」「売却する方法は何?」「共有名義の不動産に関わるトラブルはどんなもの?」「いざ売却するときに必要名書類は?」という疑問が解消され、悩みの種となっている共有名義の不動産に対処しやすくなります。
共有名義の不動産に悩まれている人は参考にしてみてください。
共有名義の不動産とは
共有名義とは建物や土地などの不動産を単独ではなく複数人で所有している状態のことです。
不動産は単独名義で登記するのが一般的ですが、下記のケースに該当するときは共有名義で登記されることがあります。
- マイホームを購入するときに夫婦で共有名義にする
- 二世帯住宅を購入するときに親子で共有名義にする
- 複数人で不動産の相続を受ける
共有名義は単独名義と何が違う
共有名義の不動産では、売却を行う時点で共有名義人全員の意思が統一されている必要があり、その中の一人でも売却に反対している状態では売却することはできません。
また不動産をリフォーム、賃貸契約の締結・解除するときも名義人の過半数の同意が必要になります。そのため共有名義の不動産は単独名義の不動産に比べて様々な手続きで、余計な手間がかかってしまうので扱いにくいと言えるでしょう。
- 1人の意思でできること
- 不動産に居住する
- 建物の補修
- 不法占拠者の追い出し
- リフォーム・リノベーション
- 建物は3年、土地は5年以内の範囲での短期的な賃貸契約の締結
- 売却
- 建物の解体・建て替え・増改築
- 抵当権の設定
- 長期的な賃貸契約の締結
共有持分割合とは
共有名義の不動産(以下:共有名義不動産)では、リフォームしたり賃貸契約を結ぶときに名義人の過半数の同意が必要になりますが、このような場合、「共有持分割合」が重要になります。
共有持分割合とは不動産を共有している人が持っている権利の割合のことです。例えば不動産の3分の2の共有持分割合を保有している人は不動産に対して3分の2の権利を持っていることになります。
つまり共有名義不動産で過半数の同意を得る場面では、同意する人数ではなく持分割合が過半数を超える必要があります。また自身で保有している共有持分割合が過半数を超えているときには、代表者として不動産を管理できるので、他の共有名義人の同意は必要ありません。
共有名義の不動産の売却が難しい理由とは
共有名義不動産は、単独名義で登記されている不動産に比べて売却が難しいといわれています。その理由はどれほど共有持分割合が高かったとしても、共有名義人全員の同意を得る必要があるからです。
それほど難しくない条件に感じてしまいますが、売却するには同意を得た後に書類を作成して、提出をします。共有名義人が2人であれば話がまとまりやすいですが、3人以上ともなると売却に賛成しない人も出てくるでしょう。
また売り出した後も名義人の数が多いほど内輪で揉めやすくなります。不動産を購入する側も揉め事が起きている不動産を買うのは心配になってしまうため、共有名義不動産は買われにくくなってしまいます。
共有名義の不動産を売却する5つの方法
一般的に共有名義不動産は売却しにくいですが、不可能ではありません。ここでは共有名義不動産を売却する方法について解説します。
名義人全員の同意を得る
共有名義人全員の同意が得られる場合は、これがベストな売却方法です。以下で紹介する方法よりもスムーズに売却しやすく、現金化することができれば、名義人間で売却益を分配できます。
しかし名義人の中の一人でも売却に反対する人がいると手続きは進められないので、名義人の人数が多いほど売却は難しいです。また売却にかかる費用は共有持分割合に応じて負担する金額が変わるので、誰がいくらかかるのかよく確認しましょう。
他の名義人に持分を売却する
自分が保有している持分のみを手放したい場合は、他の名義人に買い取ってもらう方法があります。売却先の名義人が、その不動産を使っている場合は共有持分割合が増えるとメリットが多いため、スムーズに売却が進むでしょう。
またトラブルに発展するリスクも低いため、売却を考えたときは買い取ってくれる人がいないか最初に確認しましょう。
自分の持分のみ売却する
共有名義不動産は自分の持分だけであれば、他の名義人の同意を得ずとも売却できます。この場合、専門の買取業者に売るのですが、色々とデメリットがあります。
まず単独名義の不動産に比べると売却価格が大幅に安くなってしまいます。さらに買取業者は他の名義人にも売却の話を持ちかけるので、トラブルに発展する可能性があります。
この方法で売却する場合はほかの名義人に連絡しておき、トラブルを未然に防いでおきましょう。
共有物分割請求とは
共有名義人全員の同意が得られなければ、不動産を売却することはできず、共有持分割合が多い名義人に反対されてしまえば、リフォームやリノベーションも不可能です。
また自分の持分だけを売るのはトラブルに発展する恐れがあるので気が引けるという人には、共有物分割請求という手続きがあります。
共有物分割請求とは名義人の共有状態を解消して、他の名義人にそれを分配することです。共有物分割請求を行うには共有名義人全員の同意を得る必要がありますが、不動産全体の売却をするよりも同意するハードルは低いでしょう。
持分割合によって分筆して売却する
共有名義不動産が土地の場合は、名義人ごとに土地を分けてそれぞれの土地で単独名義にすることができます。1つの土地を複数の土地に分けて登記しなおすことを「分筆」といい、単独名義に登記してしまえば自由に売却することが可能です。
土地を分筆するときは専門家による測量を行って、分割した後に、所有者移転登記を行うのである程度の時間と費用がかかります。
分筆にかかる費用とは
土地の分筆は以下の流れで行います。
- 土地家屋調査士に依頼して、分筆する土地の正確な面積を割り出す。
- 法務局で土地の変更登記を行う
- 単独名義にするために所有者移転登記を行う
また分筆には以下の費用がかかります。
- 地積測量図の作成費用(約50万円)
- 土地の変更登記(約5万円)
- 所有者移転登記(約5万円)
このほかにも固定資産税評価額の0.4%が登録免許税としてかかるので、最低でも60万円は必要になるでしょう。
所有者が1人になるように名義変更する
共有名義人の全員から持分割合を購入することで、所有者を1人にまとめることができます。それなりに費用がかかってしまいますが、単独名義にすることで自由に不動産を売却できるようになります。
共有名義の不動産の持分割合を調べる方法
共有名義不動産を売却する前に、まず持分割合を調べましょう。所有者が複数人いるとしても、その中で均等に共有持分割合が振り分けられている訳ではないからです。
共有名義人が2人の場合、兄の持分が3分の2で、自分の持分が3分の1となっているときには売却したとしても利益があまりでないことがあります。そのため事前に持分割合を調べておきましょう。
持分割合を調べるには登記簿を確認するのが手っ取り早いです。登記簿は最寄りの法務局で申請して手に入れます。登記簿には共有名義人の氏名と持分割合が記載されているので、そこで確認できます。
共有名義の不動産を売却するときに必要な書類
共有名義不動産を売却するときは名義人全員の同意の他に以下の書類が必要になります。
共有名義者全員の身分証明書・実印・印鑑証明書・住民票
不動産の売却は身分証明書が必要になり、共有名義不動産の場合も同様です。この場合は共有名義人全員分の身分証明書、実印、印鑑証明書、住民票が必要になります。
売却の同意を得るのも大変ですが、全員分の書類を揃えなければいけないので、共有名義不動産の売却はかなりの手間がかかります。
土地測量図・境界確認書
売却する予定の不動産の面積や隣地との境界を明確にするための書類が必要です。不動産を売却するときに隣地との境界がはっきりしていないと、新しい買い手と隣地の人とでトラブルに発展する恐れがあるので、買い手が付きにくくなります。
隣地との境界が明確になっていない場合は、隣地の所有者と話し合った上で境界確認書を作成しましょう。
登記識別情報(登記済権利証)
登記識別情報は、平成18年以降から発行されている12桁の英数字からなる識別番号です。申請者にしか通知されないため、この数字を知っていると不動産の権利者として判断されます。悪用される恐れがあるので、登記識別情報が通知されたら漏洩しないようにしっかりと管理する必要があります。
また平成18年より前に登記された不動産を売却する場合は登記済権利証を用意します。登記済権利証は登記が完了したときに、名義人に発行されています。
共有名義の不動産で起こるトラブルと対処方法
共有持分は自分の持分だけであれば自由に売却でき、他の名義人も同様です。しかし勝手に売却してしまうとトラブルに発展することもあります。
ここでは共有名義不動産で起こりえるトラブルとその対処方法について解説します。
他の名義人が勝手に売却してしまう
共有持分を売却する先は不動産会社で、その中でも共有名義不動産を専門に買取っている「共有持分買取業者」です。共有持分だけを買っても使い道がないので一般の人が購入することはほぼありません。
共有持分買取業者は共有持分を買い取った後、他の名義人からも持分を購入して、不動産全体の所有権を獲得した後に、高値で売却し利益を得ます。つまり一部の名義人が共有持分買取業者に持分を売却すると、他の名義人に売却の話を持ちかけてきます。
このときに他の名義人に連絡を入れていないと、他の名義人が勝手に売却された事実をこの時点で知り、トラブルに発展してしまいます。
具体的な例を挙げると親が亡くなって子どもたちが相続人になったときに遺産分割協議で誰が不動産を取得するか決めずに共有関係になるパターンがあります。
このようなケースに該当すると他の兄弟と話しあって不動産を活用するのが難しいので、他の兄弟にいわずに持分を売却してしまう人がいます。しかし上記の通りいずれは売却したことがバレてしまいます。
特にもう1人の名義人が相続した家に住んでいる場合は、突然買取業者が家に訪ねてきて売却話を持ちかけられるので、「なんで勝手に売った」と思われてしまいます。またこのことが原因となって絶縁する可能性もあるので、自分が売却する際は必ず他の名義人に伝えておきましょう。
持分を勝手に売却されたときの対処方法
共有持分が売却されてしまったときに、取引をなかったことにすることはできません。そのままの状態にしておくと共有持分買取業者との共有状態が続きます。
業者は必ず持分買取の提案を行ってくるので、まず受けるか受けないかを判断しましょう。相場通りの納得のいく金額ならば売ってしまうのも1つの手です。あるいはこちらが業者が持っている持分を買い取ることもできます。金額については交渉して、希望の金額で取引を行いましょう。
しかし買取業者が名義人に有利になるような金額を提示することは少ないです。ほとんどの場合は安く買おうとしたり、高値で売ろうとするからです。納得できない金額の場合は妥協しないようにしましょう。
交渉が難航すると共有物分割請求をされる可能性がある
買取業者との交渉が長引き、不動産会社が話がまとまらないと判断した場合は共有物分割請求を行います。共有物分割請求は共有名義不動産を持分割合に応じて分割する手続きで、最初に話し合いを行います。話し合いで解決できない場合は裁判によってどのように分割するかを決定します。
裁判の結果はどちらかが持分のお金を支払って取得するか、物件を売却してお金で分けるという形で決着が付くことが多いです。
つまり名義人の1人が持分を勝手に売却してしまうと最終的には裁判を起こされて大きなトラブルになってしまいます。そうなってしまうと時間と手間がかかってしまうので、その前に共有名義不動産トラブルに詳しい弁護士に相談して、アドバイスをもらいましょう。不動産会社との交渉への対応も依頼できるので、話し合いを有利に進められるでしょう。
共有名義の不動産で未然にトラブルを回避する4つの方法
共有名義不動産を保有している以上、持分を勝手に売却されてしまうリスクは常にあります。そのため持分を勝手に売却されてしまわないように対処しておくのがおすすめです。以下の方法を利用して未然にトラブルを防ぎましょう。
遺産分割時に単独名義になるように相続する
不動産が共有名義になる一番の原因は「相続」です。1つの不動産をどのように相続するかの話し合いがまとまらず、複数人で所有するという結論に行き着きます。
相続時に売却を行わずに、不動産を均等に分けられるので一見すると公平な分け方ですが、トラブルの元になります。相続に合わせて売却するか、相続するお金を調整して、不動産が単独名義になるように分けましょう。
共有者全員で不動産全体を売却する
持分を勝手に売却される前に、名義人全員の同意を得て共有名義不動産を売却しましょう。共有名義不動産を保有するリスクについて説明すれば、売却に反対する人は減らせるでしょう。また持分だけで売るよりも共有名義不動産をまとめて売ったほうが、利益は多くなります。
ただし共有名義不動産を売却する場合は原則として名義人全員の立ち会いが必要です。そのため売買契約の締結や物件の引き渡しには全員が揃っていないといけません。
ただ委任状を作成すると立ち会いを別の人に任せることが可能です。離れた場所に住んでいて立ち会うのが難しい人には、委任状を作成してもらいましょう。
共有物分割請求を起こす
共有物分割請求を自分から起こすというのも1つの手です。買取業者が持分を買い取って介入するより、元々の名義人同士で話し合った方がトラブルは大きくならないでしょう。
自分の持分を放棄する
持分は売却と同様に自分の意思で放棄することが可能です。放棄された持分は他の名義人に分配されます。
ただし放棄するための登記手続きには他の名義人の協力が必要です。とはいえ協力を反対されたとしても登記引取請求訴訟を起こせば裁判所命令で放棄できます。
共有名義の不動産を売却する重要なポイント
共有名義不動産を売却するときには以下のポイントを押さえておきましょう。
共有持分割合を明らかにしておく
代々相続した共有名義不動産では、共有名義人の数が増えて権利関係が複雑になっています。名義人の数が増えるほど手続きが煩雑になってしまい、どんどん処分しにくくなります。
このようなときに先延ばしにしていると次の相続で人数がさらに増えて収集がつかない事態へとなりかねません。自分が相続したタイミングで共有名義を解消する絶好の機会と捉えて対応しましょう。
そのときに一部の名義人が既に亡くなっていたり、所在が分からなかったりしますが、そのときは「不在者財産管理制度」を活用しましょう。この制度は不在者の財産を管理する人を裁判所に選んでもらう制度です。
共有名義不動産の専門家に相談する
不動産の共有名義を解消しようとすると、名義人同士の話し合いはさけられません。話し合いを避けていると時間が経過して新しい相続人が出て、かえって状況が悪化してしまいます。
話し合いをするのが難しい段階であれば共有名義不動産の専門家に相談しましょう。専門家であればさまざまな売却事例を経験しているので、共有名義を解消するための良いアドバイスをもらえる可能性があります。
売却前に税金などの費用負担割合を決めておく
共有名義不動産を売却できそうなときは売却前に費用負担割合について決めておきましょう。費用負担割合は共有持分割合によって分割するのが一般的で、むしろこの方法以外で分配すると揉める原因となるので、避けたほうがいいでしょう。
また不動産が「オーバーローン」の状態であれば売却しにくくなります。オーバーローンとは家の売却益よりもローンの残債が高いことをいい、ローンを返済するためにお金を支払わなければいけなくなります。
売却する前におおよその売却価格とローンの残債を確かめておいて、オーバーローンになっていないかを確認しておきましょう。
共有名義の不動産を売却する流れ
ここまで共有名義不動産について解説してきました。ここでは共有名義不動産を売却する具体的な流れについて解説していきます。
1.名義人全員の同意を得る
共有名義不動産を売却する場合、まず共有名義人全員が売却に承諾している必要があります。名義人と長く連絡を取っていないと、相続が発生して新しい名義人になっていることもあるので、不動産登記情報を確認して同意を取り付けます。
連絡が取れない場合は不在者財産管理制度を活用して、売却の承諾を取り付けましょう。
2.委任状を作成する
共有名義人全員の同意が得られたら、委任状を作成して、以下の書類を集めておきましょう。
- 共有名義者全員の身分証明書・実印・印鑑証明書・住民票
- 土地測量図・境界確認書
- 登記識別情報(登記済権利証)
これらの書類が揃ったら不動産の売却を進められます。
3.売却活動を行う
この段階まで到達したら単独所有の不動産売却と流れはほとんど同じです。ただし売り出し価格の決定や値下げのタイミングなどは共有名義人と相談しながら決定したほうがトラブルは少なくなるでしょう。
ただしこのときに他の名義人が「もっと高く売れるんじゃないか」と言い出して揉めることがあります。値下げの度に他の名義人の承諾を得るのは苦労しますが、承諾を得なければ値下げができず、いつまでも売れ残ってしまいます。
4.契約と引き渡しを行う
買い手が現れたら売買契約を締結します。本来であれば売買契約時には名義人全員が立ち会う必要がありますが、委任状があれば代表者となる人が立ち会えば問題ありません。
いつから引き渡せるかを名義人間で話し合って、決めておきましょう。
5.売却益と経費を名義人間で分配する
不動産を売却して得た利益と、売却するためにかかった経費を名義人全員で分配します。トラブルが起こらないように共有持分割合に応じて負担する金額を決めましょう
まとめ
共有名義不動産を所有していて、売却を考えているときは、早めにどう処分するかを決めましょう。共有名義人が亡くなって相続が発生すると権利関係が複雑になって、売りたくても売れない状況に陥ってしまう可能性があります。
共有名義不動産を売却する際には、名義人の間でしっかりと話し合って、トラブルが起こらないように気をつけましょう。