不動産を売りたい
でもなかなか売れない
不動産とは、文字通り普段は動かない(つまり不動)だから不動産なのです。そして不動産を売りたいと考えた時、2つの事実が浮き彫りになります。
「自分の不動産は売れるのか?」
「自分の不動産はいくらで売れるのか?」
という2つのポイントです。
そこでこのシリーズでは、不動産取引事例を紹介しながら「売れるか売れないか?」「売れないならどうすればいいのか?」「いくらで売れるのか?高く売れないならどうすれば価格を引き上げることができるのか?」といったポイントを解説していきます。
私は銀行員として、数え切れないほどの不動産を見て、現地に足を踏み入れ、値段を査定してきました。
そうした「銀行の中の人」の説明なので、不動産を売りたい人や、不動産購入・不動産投資を検討している人は、ぜひ参考にしてください。
それでは3つ目の事例「ほんの少しでも「越境」は大問題?」について解説していきます。
はじめに
今回は不動産取引でも地味というべきか、あまり知られていない「越境」について取り上げます。
越境とは文字通り何かが境を越えているという意味です。
しかしその「何か」が問題の重要度を左右しますし「越境しちゃっている」のと「越境されちゃっている」という状況の違いでも、問題の大きさと解決の可能性や解決法が違ってきます。
今回は隣り合う2つの不動産でお互いが相手側に「仲良く一緒に」越境していたケースです。
これから説明しますが、越境だけでも結構やっかいなのに、その不動産が銀行融資の店舗になっていると、さらに問題は複雑化していきます。
このケースは銀行員の私が実際に解決まで携わった事例なので、銀行員として現場からの解説になりますので、参考になると思います。
「ちょっとハミ出しているくらいで、そんなにたいしたことじゃないでしょう?」
そう感じる読者の方は、ぜひこの記事を読んでみてください。もしかして、これから不動産を購入するときになって、自分が当事者で悩むかも知れませんから。
売買する前の状況
売主 | 隣同士に住んでいる姉妹 |
建物 | 飲食店 |
これは、長年続いた隣同士・姉妹間の越境問題です。
些細なことから始まった小さなミスが、双方で頭を悩ます問題に膨らんでいき、最後には不動産売却で大きな壁となってしまう大問題にまで発展しました。
今回取り上げるのは、実際に銀行員として私が対処したお客様の実例です。まずは時系列とともに事件の詳細を説明していきます。
2人姉妹で仲良くお隣同士店を経営
飲食店を営む家に生まれた2人の姉妹は、家業を手伝い修行をしていた。
やがて2人とも結婚し、親の店があった土地を半分ずつ相続した。
つまり、一つの土地を半分に分け、隣同士で2件の店を営業することになった。
提供する料理が違うのでいがみ合うこともなく、「お隣同士・2人姉妹のお店」と地元でも知られて繁盛していた。
姉妹仲良く越境し合っていることが発覚
建物は、お互いが相手の土地に越境していた。
これは、店を新築した敷きが微妙にずれていたのと、姉妹だから土地境界の測量や境界をしっかり確認し合わなかったことが原因だった。
店と店の間に空調の室外機を置こうとしたとき業者からこんな言葉があった。
「そういえば◯さん(姉)の屋根と、▲さん(妹)の屋根が、うまい具合に組み合わさって、絶妙なかんけいですね!」
この言葉で、はじめて「両者が仲良く互いに越境し合っている」ことが発覚した。
具体的には、姉の店の庇(ひさし)が妹の土地にハミ出て、妹側からは2階屋根の一部が姉の土地にハミ出ていた。
姉妹はそれぞれの家を建てた業者に確認をしたが、業者からは「設計段階から了承をもらっていた」など、もう今更どうにもならないと取り合ってもらえなかった。※これは、あくまで当事者から聞いた内容です。現在の新築工事では、設計段階で越境などが発生しないか、確認したうえで工事を進めるのが一般的です
両方とも銀行融資の担保になっていた
2姉妹の店は、ともに私の銀行と融資取引があり、問題の土地と店は両者ともに融資の担保だった。
お互い越境しあっていることは銀行も承知で、ことあるごとに是正を求めていた。
しかし姉妹間の問題であり、あまり強くも言えなかったので長期懸念事項の状態となっていた。
売却が必要になったが、買い手から敬遠され続ける
姉夫婦の店では体力的に限界を感じ、後継者もいなかったので、店を閉めて子どもと同居することになる。
店の土地建物を売りに出したが、お互いに越境している状況が「面倒な揉め事あり」と敬遠されて、なかなか買い手がつかなかった。
銀行が問題解決に乗り出すこととなる
そのころには、2件の店はともに経営不振で「リスケ」(業績不審により返済期間を延長するなど、返済額を軽減して金融機関が支援すること)をしている状況だった。
私が担当となったのはそんな時期で、銀行としては廃業するならその手助けをしたほうが得策と判断し、私がこの問題の解決に取り組むことになった。
取引成功までのステップ
今回紹介するケースは、血縁者同士という点が悪い面で作用して、問題がより複雑になっていました。
しかしいくつかの対策により、なんとか売却までたどり着くことができたのです。
ではどのようなステップを踏んだのか、順番に説明していきます。
- 《問題の整理》
- 《話し合い》
- 《専門家の力を借りる》
ステップ1.《問題の整理》
まず越境の状況を詳細に把握し、問題点を明確にするところから始めました。
そもそも越境があるような不動産は売れにくいものです。
たとえば自分が越境しているなら、越境している部分を壊せば済むわけですが、現実はことべにするほど簡単には進みません。
そのため、不動産の売買では必ずといっていいほど、重要事項説明書で越境に着いての記述があるほどです。
今回はお互いに越境し合っているという点が問題なので、どうやって解決するかを考えることで双方と銀行が同じ方向を向くことができ、スタートラインに立てました。
【解説】越境・被越境
越境とは自分側が相手側に「ハミ出している」ことです。
たとえば、樹木の枝葉が隣地に越境している、といった事象が代表的です。
ただし、これも原因の木を切ってしまえば基本的には解決するので、「現地を調べたらこんな状況ですよ」といった程度のニュアンスです。
いっぽう隣地などから所有地に「ハミ出されている」のが被越境になります。
今回のケースで言えば、隣家の庇が自分の土地にハミ出している状態を指します。
越境も被越境も軽重の差はなく、どちらも売買では敬遠されます。
たとえば被越境では、ハミ出して来ている相手が動かない限り解決はしません。
逆に、越境してしまっている場合でも、それが枝葉のように簡単なものではなく建物の一部なら、最悪では取り壊して建て直すなども必要になるからです。
また越境している状況を放置していると、相手との関係が悪化した場合には訴えられることもありえます。
ステップ2.《話し合い》
話し合いをして、双方の気持ち・考えを納得行くまで吐き出すことで、落としどころを探りました。
話し合いを何度か重ねることで、お互いの意向を確認し合うことができたので、少しずつですが感情的な軋轢も薄まっていったのです。
そして問題を解決したいという点では気持ちが一緒だと感じ会えることで、そのあとは歩調を合わせて行くことができました。
ステップ3.《専門家の力を借りる》
司法書士などの専門家に相談し、法的な手続きや費用についてアドバイスを受ける事になりました。
今回は銀行主導して当たることになっていたので、私が司法書士に相談をして、登記を順を踏んで行うことで解決への糸口が見えてきたのです。
しかし、こうした手続きには費用がかかり、それは所有者である姉妹の負担なので、この部分は納得するまで時間を要しました。
それでも、最終的には「形を治す(なりをなおす)」のが一番と、越境問題は解決し、姉の店も無事売却が実現できたのです。
トラブルの回避方法
今回のケースで、トラブルの回避方法を解説します。
回避方法〜順を追って登記をした
越境を一度に解消するのは無理で、順番に登記していくことで、最終的にトラブルが回避できました。
越境トラブルの回避まで〜登記の方法
- 越境部分(はみ出ているひさしや屋根の直下部分だけを分筆した
- 分筆した土地をそれぞれの相手方が購入
- 購入額の大小で「儲かった」場合には税金の発生も懸念されたため、税務面は税理士に相談した
具体的には、双方が「買い取らせる・買い取る」と言う関係なので、無用な税金が発生しないよう、税理士に相談して売却額を決めたことで、お互いが税金を払うようなことにはなりませんでした。
事例から学ぶ成功の秘訣
今回の事例から学ぶことができる成功の秘訣は、銀行主導で進んだ点です。
成功の秘訣〜銀行主導で解決まで進むことができた
私が担当した時は、越境問題が発生したときから数えると、15年が経過していました。
しかし、ちょうどというべきか、経営が傾きリスケで返済を延ばすなど、顧客が銀行に恩義を感じていたタイミングでもあったのです。
そこで、私が主導して司法書士と相談し、解決まで銀行がイニシアチブを取ったことで、解決まですすむことができました。
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まとめ
今回の事例は、不動産取引で越境問題がいかに複雑で、解決までに時間がかかるかを示しています。
しかし、専門家や関係者の協力のもと、適切な手続きを行うことで、問題を解決し、円満な取引に結びつけることもできます。
トラブルが発生した場合は、早急に専門家に相談することが大切で、早期に対応することで、問題の拡大を防ぎ、解決を早めることもできます。