「空家になっている実家を売りたい、古い建物を売るときは契約不適合責任に注意しろと聞いたことがあるけど、それってなに?」
「瑕疵担保責任が契約不適合責任に変わったみたいだけど、両方とも意味が分からない」
「そもそも一般人が不動産を売るときに、なにか責任を背負うことがあるの!」
この記事にたどり着いた人は、このような疑問から検索したかもしれません。
不動産の売却、特に築年数が経過した古い建物付きで売却するときは、売主は契約不適合責任という課題が発生します。
そこで今回は「不動産売買の契約不適合責任とは?」と題して解説していきます。
最初から堅苦しい用語が出てきましたが大丈夫、決して難解なお話ではありません。
お金と不動産を長年見つめてきた銀行員がわかりやすく説明しますので、ぜひ参考にしてください。
この記事を読むとわかること
この記事を読むと次のことがわかります。
- 契約不適合責任の意味~瑕疵担保責任との違いは?
- 契約不適合責任の期間〜責任を負うのはいつまで?
- 契約不適合責任の免責~どの程度まで自分の責任が軽くなるのか?
- 契約不適合責任のポイント~売買で注意しなければいけないことは?
不動産売買の契約不適合責任の基本事項〜契約不適合責任とは?
まず、契約不適合責任という言葉の意味や、基本事項から説明していきます。
契約不適合責任の基本事項
契約不適合とは、「目的のモノの中身(種類、品質、数量など)が契約した内容通りになっていない状態(つまり契約不適合)」を指します。
と、ここまで説明しただけで、筆者の私も「むずかしいなあ」と感じています。
この記事は不動産売買の契約不適合責任をわかりやすく説明するために書いていますので、学術的なレベルまで掘り下げるのは避けたいと思います。
そこで、以下箇条書きで簡記しますので、より深く知りたい人はご自身で探ってください。
(参考になりそうな引用も紹介します)
- 契約不適合責任は不動産の売買に関係する
- これまで「瑕疵担保責任」だった内容が、買手の救済措置という意味合いを強めた民法改正により契約不適合責任となった
- 改正前民法における瑕疵担保責任の不足する部分、問題点を補完するもの
契約不適合責任が登場する場面
1. 建物の新築や建売住宅の販売
建物というモノに対して、主に施工業者が責任を負う
「消費者契約法」「住宅の品質確保の促進等に関する法律」などに規定されている
2. 不動産の売買
特に建物がある場合に契約不適合責任が重要で、この記事で詳しく説明する
(*以下、記事では「建物がある不動産の売買」を事例に説明を進めます)
不動産売買の契約不適合責任の意義~瑕疵担保責任との違い
「不動産売買において、これまでの瑕疵担保責任を補完するのが契約不適合責任」と説明しましたが、ではどのように補完しているのか?両者の違いを説明していきます。
まず、一覧表で違いを並べて、後半でその中の重要ワードを説明します。
なお表を見るのが疲れそうな人は飛ばしても結構ですが、重要なキーワードはぜひ目を通していただきたいです。
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い~一覧表で比較
瑕疵担保責任 | 契約不適合責任 | |
---|---|---|
対象になる理由 | 「隠れた瑕疵」が前提 | 契約不適合には「隠れた」は不要 |
契約の解除 | 契約の目的が達成できない場合に限り解除が可能 | 「契約の目的が達成できない場合」という要件はなく解除が可能 |
存続期間 | 知った時から1年以内に権利を行使する必要がある | 知った時から1年以内に契約不適合を通知すればいい |
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い~キーワードでわかりやすく
上の表はかなりシンプルにしたつもりですが、それでも専門的な用語が登場しますので、それらのキーワードを簡単に説明します。
なお重要な部分は後半でもう一度触れますので、ここは読み流す程度でも大丈夫です。
契約不適合責任と瑕疵担保責任~キーワードで説明
・【対象になる理由】
瑕疵担保責任では「隠れた瑕疵」が大前提だったが、契約不適合責任では「隠れた」という理由は不要になった(*ここは詳しく説明します)
・【契約の解除】
「契約の目的が達成できない場合に限り」という制約がなくなった
・【存続期間】
瑕疵担保責任では権利の行使、つまり自ら具体的な行動を起こさなければいけなかったが、契約不適合ではその事実を知ったと通いすれば事足りるようになった
ここも説明が必要なので、後半で触れます
があるとここも詳しく説明すると次項へ)
契約不適合責任と瑕疵担保責任の違い〜「隠れた瑕疵」とは?
民法改正前の瑕疵担保責任の場合は「瑕疵が隠れたものである」(法的には「隠れたる瑕疵」)ことが前提でした。
「隠れたる瑕疵」とは、建物の売買など契約をした時点で買い主が知らなかった瑕疵であり、かつ買い主が通常要求されるような注意力を働かせたにもかかわらず発見できなかった瑕疵のこととされていました。
例)屋根に欠陥があったために、売買で引渡されたあとになって雨漏りが発生した
この場合は屋根の欠陥が隠れたる瑕疵(今なら契約不適合)に該当するのですが、ここで大事なのは、買い主が契約当時にこの欠陥があることを知らず、また普通に気を付けて(通常要求される注意力)も発見することができなかったという点です。
こうした「隠れたる」(瑕疵)という事象が、契約不適合責任では撤廃されたのです。
この場合、買主が契約解除を求めるためには、買主が自分の無過失を証明する必要があります。
ここまでまとめると、瑕疵であると認定されても「隠れた」ものでなければ売主は責任を負わないとされてきたのが、民法の改正後は「契約の内容に適合しているか否か?」のほうが重要になったということです、
そのいっぽう、以前なら売主が責任を負わなかったケースでも、現在は契約の内容によっては責任を負う可能性がある点には注意が必要です。
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不動産売買の契約不適合責任の「存続期間」〜契約不適合責任が適用される期間はいつまで?
上表で少し触れましたが、瑕疵担保責任の頃は、買主が事実を知ったときから1年以内に権利の行使(損害賠償請求や契約の解除)をする必要がありました。
要は「事実を知ってから1年以内に買主が行動を起こさなければ泣き寝入り」だったのです。
「知ってから1年」には注意が必要
いっぽう契約不適合責任になってからは、買主が契約不適合を知った時から1年以内にその事実を売主に通知すれば良いことになったので、買主の安心材料が増えました。
しかし買主が安心できるということは、裏を返せば売主が不利になったことになります。
例えばあなたが住んでいた家を売ったとして、30年が過ぎたある日「契約不適合を知ったからなんとかしてよ(知ったときから1年以内に通知)」と言われる可能性もあるのです。
これでは売買が終わっても売主は永久に責任から逃れられないことになってしまいます。
こういった問題を防ぐにはどうしたらいいか?
こちらは後半の注意点で解説することにして、ここでは存続期間にも注意が必要とだけ覚えておいてください。
不動産売買の契約不適合責任の「免除特約」〜売主が責任から逃げられなくなるケースとは?
契約不適合責任も絶対的なものではなく、基本的には契約の当事者同士で免除する特約を自由に決めることができます。
ですから売主、買主がそれぞれ自分の身を守れることと、それぞれの権利や責任など平等にするため契約不適合責任を免除する特約(〇〇の場合は責任を免除するなど)を決めることができるのです。
ただし、各種の法律に照らし合わせて契約に問題があると売主が責任から逃れられなくなる場合もあります。
つまり買主側から見れば「契約不適合責任が全面的に免除される特約」という意味になるのです。
不動産売買の契約不適合責任~各種法律と免除特約
ではここで、各法律とその注意点を以下に簡記します。
(詳しく知りたい人は下部の法律をご覧ください)
不動産売買の契約不適合責任~各種法律と免除特約
・【民法の規定による契約不適合責任免除特約の無効】
売主が契約不適合を知っていながら、そのことを告げずに売買契約した場合など、信義に反する場合には契約が無効となる(この部分が免除特約)
・【宅地建物取引業法の規定による瑕疵担保責任免除特約の無効】
売買契約で宅建業者(不動産業者のこと)が自ら売主となる場合、当該業者が売主の瑕疵担保責任を買主に不利な特約にすると契約は無効
(ただし責任の期間を2年以上とする場合などの特例を除く)
・【消費者契約法の規定による瑕疵担保責任免除特約の無効】
事業者(売主が法人、その他団体、または個人)と消費者(事業者ではない個人・一般人)のあいだで契約する場合(これを消費者契約と呼ぶ)で、事業者の瑕疵担保責任を全部免除するような特約は無効
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不動産売買の契約不適合責任の「注意点」~売買で注意すべき3つのこと
では、不動産の売買で契約不適合責任から損害賠償を請求されるような事態を防ぐにはどうすればいいでしょうか?
ここでは以下3つの注意点を紹介します。
契約不適合責任~売買で注意すべき3つのこと
- 保証の範囲を修補の請求に限定できると安心
- 買主の請求期間を制限する
- 売主を保護してくれる「容認事項」は詳細に
注意点1. 保証の範囲を修補の請求に限定できると安心
契約書の中で保証(売主が責任を負うこと)の範囲を「修補の請求」(修理、補修)のみとして「代金の減額」や「契約解除は不可」という契約にできれば、売主は安心できます。
契約書記載例
・(保証の範囲)
売主が買主に対し負う契約不適合責任の内容は、修補にかぎるものとし、買主は売主に対し、契約不適合については修補の請求以外に、契約の無効の主張、契約の解除、売買代金の減額請求および損害賠償の請求をすることはできない。
注意点2. 買主の請求期間を制限する
買主が契約不適合責任を請求できる期間を、契約書で制限するのも売主には安心です。
「契約不適合責任を請求できる期間は、買主が不適合を知ってから1年以内」なので、30年後に不適合を知った場合でもそこから1年以内と、いつまでも関係が終わらなくなる可能性があるからです。(前出)
しかも、このように長い年月が経過してしまうと、実際は買主がやったことをこちらの不適合と言い張られても、それに対して抗弁ができなくなってしまいます。
そこで、それを防ぐため「引き渡しから〇か月」などと期間を制限する契約を結ぶケースが増えています。
契約書記載例
・(通知期間)
売主は、引渡された土地及び建物が品質に関して契約の内容に適合しないもの(以下「契約不適合」という。)であるときは、引渡完了日から3か月以内に通知を受けたものに限り、買主に対し、契約不適合の責任を負う。
注意点3.売主を保護してくれる「容認事項」は詳細に
契約不適合責任は買主の保護という性格が強く、言い換えれば売主には不利だと説明してきました。
しかし売主が自らを守るために
「こういった状態ですけど良いですよね、納得しましたよね?」
「あとになって文句はいませんよね!」
といった意味合いで「容認事項」(この場合は買主が「それで良いとして認める」という意味)を契約書に記載して認めさせるのが一般的です。
特に古い建物付の売買ではあらゆるケースを想定して「微に入り細を穿つ」ようにするべきです。
契約書記載例
・(容認事項)
本物件は築40年を経過しており屋根等の躯体・基本的構造部分や水道管、下水道管等の設備については相当の自然損耗・経年変化が認められるが、買主はそれを承認し、それを前提として本契約書所定の代金で本物件を購入するものである。
・(残存物)
本物件は令和〇年〇月まで鉄筋造りの地上3階、地下1階の構造の商業ビル用地として使用しており、同ビルを解体した際、売主は地下5メートルまでは基礎杭が取り除かれていることを現地確認したが、それ以下の地層に基礎杭(パイル)が存在する可能性はある。買主は、本件土地を分譲地として購入するものであり、地下5メートル以下に基礎杭が存在する可能性を容認して本件土地を購入するものであり、地下5メートル以下の地層に基礎杭が存在したとしても同存在は契約不適合に該当するものでなく、売主に対し追完請求、代金減額請求、解除、損害賠償等の一切の責任を問わないことを確認する。
・(心理的瑕疵)
本物件敷地内において、令和〇年頃、死亡事件(殺人)が発生したが、事件当時の建物は「お祓い」をして取り壊しをしているとのことである。以上の点は本物件の品質につき契約の内容に適合しない場合に該当するものではなく、買主は売主に対し、損害賠償その他法的請求をなし得ないものとする。
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まとめ
今回は不動産売買の契約不適合責任についてわかりやすく説明してきました。
不動産の売却には、やはり信頼できるプロの力を借りることが重要ですが、ただゆだねるだけでなく、売却に注意しなければいけないことを自分の知識として持つことができるなら、より安心して売却を頼めることでしょう。
この記事がその参考になれば幸いです。