高齢の親、認知症になった親戚などのために成年後見制度を利用しているという方が、被後見人の不動産を売却する際には、注意が必要です。
不動産によっては家庭裁判所の許可なしで売却すると違法になるためです。
成年後見人が被後見人の不動産を売却する流れと方法について詳しく解説していきます。
成年後見制度の概要とともに詳しく解説していきますので、認知や高齢になった親が所有する不動産を売却したいと考える方はぜひご覧ください。
成年後見制度とは
成年後見制度とは、認知症や知的障害などの精神疾患が原因で自己判断能力が低下した方の財産を保護したり法律行為をおこなうための制度です。
参考:成年後見制度とは
例えば、高齢や病気などを原因として、認知能力が低下した方は、自分で自分の財産を管理したり、預金を引き出したり、必要な支払いを行うことが困難です。
このような場合には、成年後見制度を活用して、成年後見人が本人に代わって、財産管理や預金の引き出しや各種法律行為を行いサポートします。
成年後見制度の2つの形
成年後見制度には以下の2つの形があります。
- 法定後見:本人や周囲の人が家庭裁判所へ申し立てて後見人等を選任してもらう
- 任意後見:本人があらかじめ公正証書で任意後見契約を締結しておく
任意後見とは、本人が「誰に財産を管理してもらうのか」「どのような権限をどの後見人に付与するのか」などを決め、本人の意志が反映される後見人制度です。
一方、法定後見とは、本人の認知能力が低下したあとに、家庭裁判所に申し立てを行い、家庭裁判所が適切な法定後見人を選定する制度です。
後見人には3つの種類がある
法定後見人には「後見人」「保佐人」「補助人」という3つの種類があり、本人の認知能力の違いによって、いずれかに分類されます。
それぞれの違いは以下のとおりです。
後見人 | 保佐人 | 補助人 | |
---|---|---|---|
本人の 判断能力 |
常に判断能力が ない |
判断能力が 著しく不十分 |
判断能力が 不十分 |
申立時に本人の 同意 |
不要 | 不要 | 必要 |
申立てが できる人 |
本人、配偶者、四親等内の親族、検察官、市区町村長など | ||
代理権 | 〇 | △ | △ |
同意権 (民法13条 記載) |
– | 〇 | △ |
同意権 (民法13条 記載以外) |
– | △ | × |
※△申立てをすることで付与可能
なお民法13条に記載されるものとは以下のとおりです。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(仲裁法(平成十五年法律第百三十八号)第二条第一項に規定する仲裁合意をいう。)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第六百二条に定める期間を超える賃貸借をすること。
十 前各号に掲げる行為を制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の法定代理人としてすること。
引用:民法第十三条
不動産の売買については三番に該当するため、被保佐人が不動産の売却をする場合は保佐人の同意が必要ですし、被補助人が不動産の売買をする場合には裁判所へ申し立てをすることで補助人に同意権を付与できます。
なお、被後見人は単独で法律行為ができないため、あらゆる法律行為を後見人が代理しなければなりません。
そのため、被後見人が不動産の売買をおこなおうとする場合には、後見人が売買の手続きを代理します。
認知症などになった高齢者の所有する不動産を売却する場合には、裁判所へ申し立てを行い、成年後見人となった上、代理や同意によって不動産を売却する必要があります。
以下、後見人が被後見人の所有する不動産を売却する流れについて解説していきます。
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成年後見を申し立てる流れ
成年後見人を選定するのは家庭裁判所です。
そのため、家庭裁判所への申し立てが必要です。
成年後見を申し立てる流れは任意後見と法定後見によって異なるので、それぞれの流れを解説していきます。
任意後見の場合
任意後見で後見人を選定する流れは以下のとおりです。
- 本人が任意後見人を選出する
- 任意後見の契約内容を決定する
- 本人の判断能力が低下後、家庭裁判所に任意後見監督人の申し立てを行う
- 公正証書で契約を締結
任意後見では本人が選定し、あらかじめ契約内容を決定し、判断能力低下後に裁判所に申し立てることで任意後見人が選定されます。
法定後見の場合
法定後見で後見人を選定する流れは以下のようになります。
- 本人の判断能力が低下後、本人や家族などが家庭裁判所に法定後見人の申し立てを行う
- 家庭裁判所が法定後見人を選出する
法定後見では、判断能力が低下した後に本人や家族が家庭裁判所へ申し立てを行い、家庭裁判所が後見人の選定をおこないます。
法定後見の申し立てができるのは配偶者や4親等内親族、市区町村長と決まっています。
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成年後見人が居住用の不動産を売却するには裁判所の許可が必要
成年後見人が被後見人の居住用の不動産を売却するためには、家庭裁判所の許可が必要です。
民法859条の3には以下のように明記されています。
(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可)
第八百五十九条の三 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
引用:民法859条の3
居住用の不動産を家庭裁判所の許可なしで売却した場合には、その売買契約は無効になるので注意しましょう。
なお、被後見人の居住用不動産とは、被後見人が実際に居住している不動産だけでなく、本人が将来的に居住する可能性がある物件も該当します。
例えば、現在居住しているのは老人ホームだったとしても、入所する前に居住していた家は居住用の不動産に該当します。
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居住用不動産を売却する際の裁判所の判断基準
成年後見人が被後見人の居住用不動産を売却する申し立てを家庭裁判所へおこなうと、家庭裁判所は次のような視点から、売却の可否を決定します。
- 売却する必要性
- 本人の意向や生活状況
- 売却後に本人の居住先の確保ができているか
- 居住用不動産の売却条件
- 売却金額の管理方法
家庭裁判所がどのような基準で居住用不動産の売却の可否を決めているのか、詳しく解説していきます。
売却する必要性
当該不動産を売却する必要性があるかどうか判断されます。
売却する理由が、本人の入院費用や介護施設への入所費用などなどであれば、売却に必要性や合理性があるので認められますが、売却する必要性が特段ない場合には、売却が認められない可能性があります。
本人の意向や生活状況
本人に判断能力があるのであれば、売却に対する本人の意向が反映されます。
したがって本人に売却する意向がないのであれば、売却は認められない可能性が高くなるでしょう。
また、現在は介護施設に入居しているものの、将来的に自宅に戻る可能性があるような生活状況の場合には売却は認められない可能性が高くなります。
売却後に本人の居住先の確保ができているか
居住用の不動産を売却したあとに本人の居住先の確保ができているかどうかも非常に重要です。
売却後に本人の居住先が確保できていないのであれば、売却は認められることはありません。
居住用不動産の売却条件
売却条件とは売却価格のことです。
売却価格に妥当性がなければ、いくら売却する理由に合理性があり、本人の居住先が確保されているとしても、売却が認められない場合があります。
例えば、相場よりも著しく安価な価格で不動産を売却する場合は、本人が損をすることがあるので、売却が許可されない可能性があるでしょう。
売却金額の管理方法
不動産を売却したお金をどのように管理するかも確認されます。
家庭裁判所は本人名義の口座で管理すべきと考えているため、成年後見人名義の口座で管理するような場合には、売却が認められない可能性があるでしょう。
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成年後見制度で不動産を売却する方法
成年後見制度を利用して不動産を売却する流れは以下のとおりです。
- 不動産会社と媒介契約を締結する
- 不動産会社による売却活動を実施
- 買主と売買契約を結ぶ
- 管轄の家庭裁判所に不動産売却の申し立てを行う
- 家庭裁判所の許可を得たら買主から売却の代金を受け取る
- 買主に不動産を引き渡す
それぞれの流れの中で重要なポイントについて、詳しく見ていきましょう。
不動産会社と媒介契約を締結する
まずは、通常の売買と同じように、不動産会社と媒介契約を締結しましょう。
複数の会社に査定を出して、最もよい条件で査定してくれた不動産会社や、担当者との相性などから媒介契約を締結する不動産会社を決定します。
媒介契約は成年後見人が締結できます。
不動産会社による売却活動を実施
不動産会社がポータルサイトへの掲載や、自社の顧客へのアプローチなどの方法で、売却活動を開始します。
一般媒介、専任媒介契約の場合には売主も買い手を探せますが、専属専任媒介契約の場合には売主も買い手を探せないので注意しましょう。
買主と売買契約を結ぶ
不動産会社が買い手を見つけ、売買の条件が一致したら、買主と売買契約を締結します。
この際、契約書には「家庭裁判所の許可が得られない場合には、売買契約を停止する」という条件を特として記載しておきます。
これによって、家庭裁判所が売却の許可を出さない場合も契約違反になることがありません。
なお、契約書は不動産会社が作成してくれます。
管轄の家庭裁判所に不動産売却の申し立てを行う
家庭裁判所に対して、不動産売却の申し立てをおこないます。
正式には「居住用不動産処分許可の申立て」という手続きをおこないます。
「居住用不動産処分許可の申立て」は異議申し立てができない手続きですので、慎重に手続きをしてください。
なお、成年後見監督人が専任されている場合には、家庭裁判所だけでなく成年後見監督人からも許可を得なければならないため注意してください。
家庭裁判所の許可を得たら売却の代金を受け取り引き渡す
家庭裁判所の許可が降りたら、物件の引き渡しをおこない、売買の代金を受け取ります。
代金受領と同時に司法書士立ち会いのもと、名義変更の書類を渡して引き渡し完了です。
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まとめ
判断能力が低下した親などが所有する不動産を売却したいのであれば、成年後見人になる必要があります。
成年後見人でもないのに、他人名義の不動産を売却することはできないので注意しましょう。
なお、成年後見人が被後見人の不動産を売却する場合には家庭裁判所の許可が必要です。
家庭裁判所の許可を得ずに居住用不動産を売却した場合、その売買は無効となるので、必ず家庭裁判所の許可を得てから物件の引き渡しをおこなってください。
参考:
成年後見人が住宅を売却するには?
成年後見人が不動産売却をするには許可や同意が必要