相続した不動産を売却するときには遺産分割協議書が必要?作成時の注意点もあわせて解説

  相続した不動産を売却するときには遺産分割協議書が必要?作成時の注意点もあわせて解説

この記事では、遺産を受け取る相続人が複数いる場合に行われる遺産分割協議の方法や遺産分割協議書作成にあたっての注意点を解説していきます。複数人での相続はトラブルに発展する可能性が非常に高いので、いざという時のためにもしっかり準備しておきましょう。

西出 早希
【執筆・監修】西出 早希

現在会社員として住宅営業をしており、その過程でお客様への土地提案、プラン提案など行っています。

【保有資格】宅地建物取引士

家族が亡くなると、相続が発生します。
その場合は、相続が発生した日の翌日から10か月以内に相続税の申告をしなければなりません。

そのため、遺産を受け取る相続人が複数いる場合には遺産を分配し、それぞれが受け取る分を確定する必要があります。
その際、行うのが「遺産分割協議」で、分配方法を相続人全員で話し合い、受け取り方法や分配割合を決めるのです。

今回の記事では、相続した不動産を売却する際の「遺産分割協議」の方法や、遺産分割協議書の作成時の注意点を併せてお伝えしますので、ぜひ参考にしてみてください。

遺産分割協議とは?

亡くなった人が遺言書を残していない場合、遺産をどのように分けるのかを相続人全員で話し合うのが、遺産分割協議です。

相続人が複数いる場合、そのままでは共有の財産となり、売買や処分を行うのが困難になります。

民法では法定相続分として、続柄によって取得できる割合が決められていますが、これはあくまでも目安。

法定相続分以外で遺産を分ける場合の遺産分割協議は、必ず相続人全員で話し合いを行わなければなりません。
相続人のうち1人でも不参加の人がいると無効となってしまいますので、注意が必要です。

遺産分割の4つの方法とは?

現物分割

相続分に応じて分配する方法で、現金はAさん、不動産はBさん、有価証券はCさんというように、現物ごとに誰が相続するのかを決めます。

現物を売却したりする必要がないため、この方法はもっとも多く利用されています。

代償分割

相続人のうちの1人または数人が相続し、その他の人に対して代償金を支払う方法です。

例えば、相続人が3人いて遺産が不動産の場合、そのうちの1人、Aさんが不動産をすべて相続し、他の人に対しては不公平のないようAさんがBさんとCさんに現金を渡します。

Aさんが財産を取得し、他の相続人にその分のお金を払って遺産を清算するといったイメージです。

ただし、Aさんに金銭的な余裕がなければ難しい方法です。

共有分割

遺産の全部もしくは一部を、複数の相続人が共有して取得する方法です。

例えば、遺産が不動産(土地)の場合、相続人がそれぞれの持ち分に応じて登記を行い、土地を共有します。

この方法の場合、遺産を処分(売却)するときに相続人全員の同意が必要となります。
売却の際、相続人が1人でも反対したら処分できなくなり、最悪の場合、トラブルに発展する可能性もあるので注意が必要です。

換価分割

遺産を売却して現金化し、相続人全員で分配する方法です。
現物を取得したい人がいない、または、代償分割するほど経済的に余裕がない場合に利用されることが多いです。

なお、現金化した後の配分割合は、必ずしも法定相続分にする必要はありません。協議し、任意で決めることができます。

今回は、相続した不動産を売却する方法として、「換価分割」について掘り下げていきます。

換価分割の遺産分割協議書の書き方と注意点!

換価分割とは

換価分割

亡くなった人(被相続人といいます)が残した財産を売却してお金に換えた後、そのお金を相続人で分配する方法です。

遺産分割を行う際には、どのように分配するのかをめぐって、相続人同士の争いとなることがあります。そのため、できるだけ金額的に公平な分割が望ましいといえるでしょう。

しかし、遺産の中には不動産や有価証券など金額が大きいものの簡単に分けられない財産もあります。このような財産を現物のまま相続人が相続しようとすると、特定の人の取り分が増えてしまうのです。

その結果、遺産分割協議がいつまでもまとまらず、ついには裁判所での手続きになってしまう可能性もあります。換価分割を行えば、遺産を現金化して分配できるため、特定の相続人が不動産などを相続して金額面のバランスが崩れるのを防ぐことができるのです。

そのため、不動産や有価証券のように分配しにくく、金額的に大きな遺産がある場合は、換価分割が有効だといえます。

換価分割の手続き・流れについて

換価分割を行う場合、被相続人が保有していた財産を売却する必要があります。

換価分割の流れとしては、以下の通りです。
詳しく説明していきます。

  • 分割方法を選択する
  • 遺産分割協議書を作成する
  • 不動産登記
  • 不動産の売却
  • 売却金を分配する

STEP 1: 分割方法を選択する

まずは分割方法を選択します。
相続では、換価分割以外にも、現物分割・代償分割・共有分割という方法があります。
現物分割・代償分割・共有分割にもメリット・デメリットがあるため、適切な方法を選びましょう。

相続人合意のもと、換価分割を選択します。

STEP 2: 遺産分割協議書を作成する

遺産分割協議書とは、先述した遺産分割協議で合意した内容をまとめた書類です。

遺産分割協議によって相続人全員の合意が得られたら、その内容をまとめた遺産分割協議書を作成します。
相続では遺産をめぐってトラブルになることが多いため、必ず遺産分割協議書を作成しておきましょう。

遺産分割協議書を作成するときには、相続人全員の署名・捺印が必要です。
もし、署名・捺印が抜けていたり、書類に不備があったりすると、遺産分割協議書として効力を発揮できない可能性があるため注意しましょう。

STEP 3: 不動産登記

換価分割の方法・分配内容を決めて、遺産分割協議書を作成したら、次は不動産登記を行います。

不動産登記とは、不動産の所有者といった情報を登録・変更することです。相続した不動産を売却するとしても、亡くなった被相続人名義の不動産をいきなり売却できません。

必ず相続人の名義に変更して、そこから売却ができます。

不動産の登記は、法務局に行って登記申請が必要になりますが、戸籍謄本・遺産分割協議書などの書類も合わせて、提出しなければいけません。
この売却の手続きを行う際は、被相続人の名義のままではできないため、相続人の名義に変更した上で売却することとなります。

相続登記に必要な書類一覧を以下にまとめました。こちらの書類をもって、法務局へ相続登記の申請が必要になります。

書類 入手先
相続人全員の戸籍謄本 市区町村役場(所)
被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
被相続人の住民票の除票
不動産取得者の住民票
相続する不動産の固定資産評価証明書 不動産所在地の市区町村役場(所)
収入印紙 郵便局・コンビニ・法務局など
登記申請書 自分で作成
返信用封筒 郵便局・コンビニなど

加えて、遺産分割協議をした場合に追加で必要となる書類は、以下のとおりです。

書類 入手先
遺産分割協議書 自分で作成
相続人の印鑑証明書 市区町村役場(所)

なお、相続人の名義に変更する場合に、①共同相続人全員の共有にする、②相続人の中で代表者の名義にする、の2つの方法があります。

この2つの方法の違いやメリット・デメリットについては、次の見出し以降で詳しく解説していきます。

STEP 4: 不動産の売却

不動産の名義を相続人に変更できたら、ようやく不動産の売却に進みます。

仲介してくれる不動産会社との契約を行い、売却先を探さないといけません。
スムーズに買い手が見つかればいいですが、時間がかかったり、希望額よりも低い金額で購入される可能性もあります。

あらかじめ、値引きできる金額を相続人で話し合っておくとスムーズです。

STEP 5: 売却金を分配する

売却先が決まって、不動産の売却が完了したのち、遺産分割協議書に従って、相続人へ分配します。

売却によって利益が出た場合、譲渡所得税がかかる可能性がありますが、こちらは換価分割にかかる税金として、後述しますので参考にしてください。

換価分割の手続きは、専門知識が必要だったり、相続人全員の合意を取りながら進めたりしなければいけません。

手続きに不安があったり、相続人同士のトラブルを避けたい人は、早い段階で専門家へ相談するのがおすすめです。

遺産分割協議書の名義を相続者全員にする方法

換価分割する前に、被相続人の財産を相続人全員の名義とする方法です。

例えば、
Aさん、Bさん、Cさんが相続人だとすると

Aさん 三分の一
Bさん 三分の一
Cさん 三分の一 にて共同所有とする

と定めて協議書に記入すること。

この方法には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか。

遺産分割協議書 見本

メリット

メリットは、事前に誰の名義にするかの話し合いが必要ないことです。
代表者を決めてその人の名義とすれば、外見上はその代表者の財産であるかのようになるためトラブルになるケースも。

相続人全員の名義とした場合、余計な話し合いを行う必要がなく、スムーズに換価手続きに入ることが可能です。

デメリット

相続人全員が登記上の名義人となる場合、売却手続きにすべての相続人が関与しなければなりません。

不動産会社との媒介契約、契約書の作成、重要事項説明など、あらゆる場面で相続人全員の署名・押印や印鑑証明書が必要となり、大変手間がかかります。

相続人が遠方にいる場合などは、代表者を決めて売却を行った方がスムーズと言えます。

遺産分割協議書を代表者名義にする方法

代表者名義にした場合、相続人が複数いても、換価分割の手続きを代表者だけで行うことができます。また、この時の遺産分割協議書には、「換価分割を目的として」という一文を入れておきましょう。

例えば、
Aさん、Bさん、Cさんが相続人だとすると 

不動産は換価分割を目的としてAさんが取得する。

Aさんは不動産を速やかに売却し、売却代金からかかる全ての費用を控除した残金をAさん、Bさん、Cさんがそれぞれ三分の一ずつ相続する。

と定めて協議書に記入します。

本来は相続人の共有となるのですが、換価手続きを行ってすぐに売却するため、手続きを簡略化することが可能となっています。

遺産分割協議書を代表者名義にする方法 見本

メリット

代表者1人の名義とするメリットは、代表者が1人で売却の手続きを進められることです。

相続人全員の共有とした場合は、その後の手続きもすべて全員で行わなければなりませんが、代表者の名義とした場合には、その代表者だけが手続きを行います。

特に遠方に住む相続人や高齢の相続人がいる場合は、代表者を定めるのが有効です。

デメリット

デメリットとしては、代表者を誰にするかでトラブルになる場合があることです。

代表者となった人は買い主と交渉したり売却代金を受け取ったりする窓口となるため、信頼できる人でなければなりません。

特に手付金や売却代金を受け取った後に使い込んでしまうようなことのないよう、注意しなければなりません。

遺産分割協議後に不動産を売却できないときのリスク

贈与税がかかるリスク

換価分割を行う前提で遺産分割協議書を作成しているにも関わらず、その内容が実現しないのは大きな問題となる可能性があります。

換価分割がなかなか成立せず、相続発生から10年以上経過した後に実現するケースもありますが、この場合も売却して得た収入金額は、当初の想定どおり相続人で分けなければなりません。

しかし、換価分割までの間、代表者の名義としていた場合には、実質的にその代表者の財産になったかのような状態にあります。

そこで、収入金額をそれぞれの相続人に分配すると、贈与と指摘されることがあるのです。

この場合の国税庁の見解は、単独の相続登記が換価のための単なる便宜であって、その代金が実際に遺産分割協議や遺産分割調停の内容に従って実際に分配されたなら贈与税の問題は生じないとしています。

つまり、遺産分割協議の内容にしたがって行った遺産分配については、贈与としてみなされない、ということ。

よって、贈与税を課税されないためには、遺産分割協議書に、換価分割を行うことと換価した売却代金の分配割合を明記しておく必要があります。

固定資産税が負担になるリスク

相続発生後すぐに換価分割ができれば、固定資産税の負担はほとんどありません。
しかし、相続した後になかなか換価分割が成立しなければ、その間に固定資産税の納税義務が発生します。

年数が経過すれば、その分固定資産税の納税額も積み重なっていくため、すぐに売却できないかもしれない物件については、毎年の固定資産税の金額に気を配っておきましょう。

不動産相続の換価分割でかかる税金

譲渡所得税

譲渡所得税とは、土地などの不動産を売却した際に得た利益に課される税金のこと。
利益に対して課税されるため、税額が決まるのは売却後です。

「譲渡所得」=「売却価格」-「取得費と譲渡費用を足した金額」

遺産分割協議によって、あらかじめ分割割合が決まっている場合では、その割合で取得した遺産を各相続人が売却したものと扱われます。

よって、各相続人が、その割合で取得した遺産を換価(譲渡)したものとして、その割合に応じた申告が必要です。

譲渡所得税の金額(所得税額)の計算方法

譲渡所得税額 = 課税譲渡所得金額 × 税率

課税譲渡所得金額については、次の項目で説明します。

税率は、譲渡した年の1月1日現在の不動産の所有期間が5年を超える長期譲渡所得か、5年を超えない短期譲渡所得かによって異なります。

  • 長期譲渡所得の場合:所得税15%、住民税5%
  • 短期譲渡所得の場合:所得税30%、住民税9%

なお、ここにいう不動産の所有期間とは、その不動産の所有権を取得した日の翌日から起算します。相続の場合は、被相続人が所有権を取得した日の翌日が起算日です(租税特別措置法施行令20条2項3号)。

課税譲渡所得金額の計算方法

課税譲渡所得金額 = 譲渡価額 -(取得費 + 譲渡費用)- 特別控除額

・譲渡価額=売却代金

・取得費

購入代金等から減価償却費相当額を差し引いた金額。相続税の申告期限から3年以内に売却した場合であれば、納付済み相続税のうち、売却した資産に対応する金額を取得費に加算できます。

・譲渡費用

仲介手数料、測量費、立退料、建物解体費等

・特別控除額

「居住用財産の譲渡の特例」(3,000万円の控除)等

贈与税がかかる場合

原則、不動産の換価分割で得た売却益には贈与税は課税されません。

しかし、以下のケースに当てはまるときは贈与税が課税される可能性があります。

  • 遺産分割協議書に換価分割を行うことを明記しなかった場合
  • 売却から分配までの期間が空いてしまった場合

換価分割を行う際は、換価分割を行うことと、利益配分について遺産分割協議書に明記しなければなりません。

明記せずに利益配分を行うと、相続による換価分割とは無関係と考えられてしまい贈与税の課税対象となってしまうため注意しましょう。

また、売却から分配まで期間が空くと贈与税が課される場合があるので注意が必要です。

【不動産を売却】換価分割で遺産を分けるメリット・デメリット

換価分割で遺産を分けるメリット

換価分割には、遺産を売却してから遺産分割するという手続きの方法から、以下のようなメリットが考えられます。

メリット

  • 遺産の中身や相続人の数に関係なく公平な分割ができる
  • 遺産分割の際に資金を準備する必要がない
  • 相続税の納税資金を捻出できる

それぞれのメリットについて、その内容を解説していきます。

遺産の中身や相続人の数に関係なく公平な分割ができる

遺産分割で揉める最大の原因は、財産をすべての相続人が納得するように分割できないことです。

遺産の中身によって簡単に分割できない財産があると、金額のバランスをとることが難しくなります。
また、不動産や有価証券だけを相続して、相続税が払えないのも大きな問題ですよね。

しかし換価分割を行えば、この2つの問題点を一度に解決できます。
財産をお金に換えれば簡単に等分することができる上、それぞれの相続人の財産の中身も同じになり、分割で揉めることは少なくなるでしょう。

遺産分割の際に資金を準備する必要がない

遺産分割でそれぞれの相続人の相続分を公平にするために、代償分割を行う場合もあります。

代償分割とは、多くの財産を相続した相続人が、少ない金額しか相続できなかった人に、現金を支払う方法。

もとの財産はそのままの形で維持することができるため、自宅などが相続財産となっている場合に用いられます。

ただ、代償分割を行うためには、代償金としての現金を準備しなければなりませんし、その代償金は遺産から支払うことはできないため、自身の預金口座から支払わなければなりません。

これに対して換価分割の場合は、自身の保有する現金を準備しておく必要はありません。

相続税の納税資金を捻出できる

相続の際にネックとなることに、相続税の納税があります。
遺産に現金が多く含まれていれば、その遺産を使って納税することができますが、遺産に十分な現金があるとは限りません。

不動産を多く保有している人が亡くなると、多額の相続税が発生する一方で、納税に使える現金があまりないケースもあり得ます。

このような場合に換価分割を行っていれば、売却して得た現金を相続税の納税資金とすることができるのです。

換価分割で遺産を分けるデメリット

換価分割を行うことには、メリットばかりでなくデメリットもあります。

換価分割を行うデメリットと考えられるものには、以下のようなものがあげられます。

デメリット

  • 想定どおりに売却できない
  • 売却時に手数料がかかる
  • 売却時に譲渡所得税が課されることがある

デメリットについても、それぞれの内容を確認しておきましょう。

想定どおりに売却できない

換価分割を完了させる大前提は、遺産(不動産)を売却することです。
ところが、この遺産の売却は簡単でなく、必ず換価分割できるとは限りません。

不動産を売却する場合、立地などから人気のある物件であれば、売却までにそれほど時間はかからないでしょう。

ただ、そのような物件はごく一部です。
多くの物件は、なかなか売却できず、売却が成立しても期待するよりも低い金額となることもあります。

そのため、換価分割できないことも想定して遺産分割を行う必要があります。

売却時に手数料がかかる

不動産を売却する際には、手数料がかかります。
例えば、仲介手数料として3%程度の手数料が発生しますし、測量費用や印紙代などの諸費用もかかります。

まとまった金額の負担をしなければならないため、金銭的な負担は避けられません。

売却時に譲渡所得税が課されることがある

不動産を売却して発生した売却収入は、所得税の課税対象となるものです。
その不動産を購入した時の金額との差額が売却益となり、売却益に対して約20%(所有期間によっては約40%)の譲渡所得税が課されます。

なお、相続した不動産で、その購入金額が不明の場合には、売却収入の5%を取得金額とすることができます。

譲渡所得の申告は、資産を譲渡した日の属する年の翌年の2月16日から3月15日の間に確定申告が必要ですので、忘れないようにしましょう。

まとめ

換価分割は遺産分割を行う際の分割方法の1つであり、相続人が現金を持っていなくても利用できるものです。

ただし、換価分割を行うと売却代金から所得税の納税が発生することもあるため、注意が必要です。

また、不動産を売却してお金に換える際には、なかなか売却が成立しない上、低い金額でしか売却できないこともあります。

高い金額で売却できることを前提とせず、換価分割ができない場合も想定しておくと、より確実な遺産分割ができるでしょう。

今回の記事を参考に、スムーズな遺産分割ができることを祈っております。

注目ワード

Top