マンションを相続した際にやるべき手続きは、大きく3つあります。
- マンションを相続する人を決める。
- マンションの相続登記申請を行う。
- 相続したマンションについて相続税を納税する。
これまで、マンションの相続を経験したことがない初心者の方ですと、何から手を付けたらよいのか、相続手続きの流れが分からないこともあると思いますが、大まかには、この3つの流れに沿って、相続手続きを進めれば間違いがありません。
マンションを相続する人を決める
マンションの所有者が亡くなったら、マンションの所有権を承継する相続人を確定しなければなりません。そのための相続手続きの流れを紹介します。
相続人を確定する方法は、大きく分けて、被相続人(亡くなった人)があらかじめ遺言で意思を示しておく方法と相続人同士が遺産分割協議を行い話し合って決める方法の二つがあります。
遺言書がある場合
まず、遺言が残されている場合から見ていきましょう。
遺言書がある場合のマンションの相続人の決め方
被相続人が自分の遺産をどのように分けてほしいか書き記した遺言書を書き残していることがあります。
遺言書が有効なものであれば、原則として遺言書に則って、遺産を分け合うことになります。
例えば、相続人である子が複数いて、被相続人が複数の不動産を所有していた場合は、子ごとに不動産の分け前を決めているケースがあります。
被相続人Aが亡くなり、配偶者B、子のCとDが法定相続人になり、次のような相続財産が残されたとします。
- A名義の土地と一戸建て(現在、Bが住んでいる。)
- A名義のマンション(以前住んでいたが、現在は賃貸している)
- A名義の銀行預金
この事例で、Aが次のような遺言を残すこともあります。
A名義の土地と一戸建てをCに相続させる。同時にBのために配偶者居住権を設定する。
A名義のマンションをDに相続させる。
A名義の銀行預金をBに相続させる。
このような遺言書が有効に残されていれば、マンションをDが相続することで決着します。
B、C、Dの間で別途、遺産分割協議を行う必要はありません。
遺言書の探し方
被相続人が遺言書を書き残した可能性がある場合、重要なのは、その遺言書を見つけ出すことです。
主な遺言書のタイプは次の2つです。
1.自筆証書遺言
被相続人が自分で手書きした遺言書です。全文自筆であること、日付と署名があること。押印があることといった民法968条に規定されたいくつかの要件を満たしていなければなりません。この要件を満たさないために無効となることも多い形式です。また、基本的には、被相続人が自分で保管するため、相続人が発見することが難しいこともあります。
金庫や書斎等被相続人が重要書類を残しそうな場所を探すしかありません。
なお、現在では、自筆証書遺言を法務局に保管する自筆証書遺言書保管制度もあります。これを利用している場合は、法務局で自筆証書遺言の有無を確認できますし、後述する検認も必要ありません。
引用:遺言書の検認
2.公正証書遺言
被相続人が公証人に口述して、公証人に遺言書を書いてもらう形式です。専門家が関与するため、無効になりにくい形式です。公証役場に遺言書の原本が保管されるので、公証役場に問い合わせれば、遺言書の有無が分かります。また、後述する検認も必要ありません。
遺言書の検認
自筆証書遺言の場合、遺言書を発見してもそのままでは、相続手続きに利用することはできません。
家庭裁判所において、遺言書の検認という手続きを経る必要があります。
検認とは、遺言書が発見された時点での状態を裁判所で確認して、その後の偽造、変造を防止するための手続きです。
裁判所に問い合わせれば手続きや手数料を教えてもらえます。
引用:遺言書の検認
遺産分割協議の場合
被相続人が遺言書を書き残していない場合は、相続人同士で話し合って、誰がどの相続財産を相続するのか決定しなければなりません。
遺産分割協議と呼ばれる話し合いです。
遺産分割協議はいつまでに行えばよいのか?
遺産分割協議はいつまでに行わなければならないといったルールはありません。
ただ、民法、相続税法、不動産登記法に目安となる期間が定められています。
1:相続の承認または放棄は、相続開始から3カ月以内
- 遺産分割協議を行わなかったとしても、相続開始(一般的には被相続人が亡くなった日)から3カ月を経過すると自動的に相続を承認したことになり、相続放棄ができなくなります。(民法915条)
例えば、被相続人の相続財産に負債が多く、プラスの財産がない場合は、家庭裁判所で相続放棄の手続きをすることで、負債を承継することを免れます。3カ月経過すると、この手続きが利用できなくなります。
2:相続税の申告は10カ月以内
- 相続税法により、相続税の申告書は、相続の開始があつたことを知つた日の翌日から10カ月以内に税務署に提出しなければならないことになっています。(相続税法27条)
3:相続登記申請は3年以内
- 2024年4月1日からは相続登記が義務化され、不動産を相続した場合は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ、当該所有権を取得したことを知った日から3年以内に相続登記申請を行わなければなりません。(不動産登記法76条の2)
これらの期限からして、一般的には、相続開始から3年以内が遺産分割協議のタイムリミットだと考えておきましょう。
遺産分割協議が3年以内に終わらない場合はどうしたらよいのか?
相続人同士で話し合いができなかったり、話がまとまらず、争いが生じてしまったりしている場合は、相続開始から3年経過しても、遺産分割協議がまとまらないこともあります。
そのような場合でも、相続開始から3年経過すれば、相続登記申請を行わなければなりません。
相続登記申請を行わない場合は、10万円以下の過料に処せられてしまう可能性もあります。
遺産分割協議が長引きそうな場合は、相続人申告登記を行っておくことで、相続登記申請義務を履行したことにすることもできます。
つまり、10万円以下の過料に処せられることを回避できます。(不動産登記法76条の3)
相続人申告登記は、報告的な登記とされていて、法務局で遺産分割の対象となっている不動産について、相続が開始したことと自分が相続人であることを申し出るという制度です。
申出は、各相続人が単独で行うこともできますし、1人の相続人が他の相続人の分もまとめて代理して行うこともできます。
2024年1月の時点で正確な必要書類は不明ですが、主な書類は、被相続人と相続人本人の関係が分かる戸籍謄本だけです。
相続登記ほどの書類は必要ないと考えられています。
遺産分割協議がまとまったら?
相続人同士で話し合った結果、遺産分割協議がまとまったら、遺産分割協議書を作成します。
文面は、遺産分割協議書の雛形を参考に相続人の代表者が書いたものでも構いません。
誰がどの相続財産を相続することになったのかをはっきりと書き記した上で、遺産分割協議が成立した日付を記載し、相続人全員で署名押印を行います。
印鑑は実印を用いて、印鑑証明書を添付します。
相続人それぞれの相続手続きに必要になりますから、相続人分の遺産分割協議書を作成することが望ましいです。
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マンションの相続登記申請を行うこと
マンションを相続する人が決まったら、マンションの相続登記申請を行います。
相続登記は、司法書士に依頼するのが確実ですが、比較的簡単な手続きなので知識があれば自分で手続きすることも難しくありません。
マンションの相続登記申請のパターン
マンションの相続登記申請には、主に2つのパターンがあります。
被相続人Aが亡くなって、配偶者B、子のCとDが法定相続人になり、Dがマンションを相続することになったケースで見ていきましょう。
1.被相続人名義のままになっている場合
- 相続開始後、特に相続登記手続き等を行うことなく、遺産分割協議を終えて、マンションの所有権登記名義人がAのままになっている場合です。
この場合は、相続を原因として、マンションの所有権を被相続人AからDに移転する手続きを行います。BとCの協力は必要なく、Dが単独で申請を行うことができます。
2.一旦、法定相続分で相続登記をしていた場合
- 被相続人Aが亡くなった後で、マンションについて、配偶者Bが4分の2、子のCとDがそれぞれ4分の1という形で、法定相続分による相続登記を済ませていた場合です。
従来は、BとCがそれぞれの持分をDに売却した場合と同じ手続きを行わなければなりませんでした。つまり、Dが単独で申請することはできず、BとCが協力してくれない場合は、手続きが困難になることもありました。
2024年4月1日からは、BとCの協力は必要なく、Dが単独で申請を行うこともできるようになります。
具体的には、遺産分割を原因として、B、C、Dの共有名義をD単独名義に更正する登記を行う形になります。登録免許税も1000円でよいことになりました。
マンションの相続登記申請に必要な書類
遺産分割協議を終えて、マンションの所有権を被相続人AからDに移転する手続きを行う場合に必要になる主な書類をまとめておきます。
- 被相続人Aの出生から死亡まで、在籍していた全ての戸籍、除籍謄本……本籍地の市区町村から入手します。現在の本籍地とは別に出身地の市区町村からも取り寄せなければならないことも多いです。
- 被相続人Aの住民票除票または戸籍附票……「被相続人の登記上の住所」が「戸籍謄本」等に記載された本籍と異なる場合に必要になります。
- B、C、Dの戸籍謄本……被相続人Aの死亡後のものが必要になります。
- B、C、Dの印鑑証明書……遺産分割協議書に押印された印鑑のものが必要になります。
- 遺産分割協議書
- Dの住民票
上記の添付書類をそろえた上で、法務局が公表している「所有権移転登記申請書(相続・遺産分割)」を参考に申請書を作成し、管轄の法務局に提出します。
戸籍謄本等の取得が2024年3月1日から簡単になる
2024年3月1日からは、戸籍謄本等の広域取得制度が始まります。
戸籍謄本は、本籍地の市区町村から直接入手するのが基本ですが、広域取得制度では、現在住んでいる市区町村で、他の市区町村にある戸籍謄本等も取得できるようになります。
上記の事例ですと、被相続人Aの出生から死亡まで、在籍していた全ての戸籍、除籍謄本を一括して、取得できるようになるので、相続登記申請に必要な書類をそろえるのが楽になります。
引用:法務省 戸籍法の一部を改正する法律について(令和6年3月1日施行)
マンションの相続登記で納付する登録免許税は?
マンションの相続登記を申請する際は、法務局に登録免許税を納付しなければなりません。
登録免許税相当額の収入印紙を購入して、申請書に貼り付けて提出する形になります。
登録免許税の額は、「マンションの固定資産評価額×0.4%(1000分の4)」によって計算することができます。
固定資産評価額とは、市区町村で管理している固定資産課税台帳の価格のことです。
一般的には、毎年、固定資産税納税通知書と一緒に送られてくる固定資産課税明細書に、「価格」や「評価額」として表記されている価格を指します。
「固定資産税課税標準額」のことではないので注意してください。
例えば、マンションの固定資産評価額が1000万円であれば、
1000万円×0.4%(1000分の4)=4万円
つまり、4万円が相続登記に際して納付すべき登録免許税になります。
相続したマンションについて相続税を納税すること
相続税は、相続が発生した場合に必ず掛かるわけではありません。
遺産総額が基礎控除額を下回っていれば、相続税は掛からないことになっています。
被相続人Aが亡くなり、配偶者B、子のCとDが法定相続人になり、次のような相続財産が残されたとして相続税がどれだけ掛かるのか計算してみましょう。
- A名義の土地と一戸建て 3,000万円 → Cが相続
- A名義のマンション 2,000万円 → Dが相続
- A名義の銀行預金 1,000万円 → Bが相続
相続税の基礎控除額の計算方法
相続税の基礎控除額は次の計算式により算出します。
3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
上記事例の場合は、次のような計算になります。
3,000万円 + 600万円 × 3 = 4,800万円
つまり、Aの相続財産全額(3,000万円+2,000万円+1,000万円)6,000万円のうち、4,800万円までは控除できることになります。
そのため、課税遺産総額は、
6,000万円 - 4,800万円 = 1,200万円
この額になります。
マンションを相続した相続人が納付すべき具体的な相続税額の計算
まず、相続税の総額を計算します。
上記で算出した課税遺産総額を法定相続分に従って取得したものと仮定し、各法定相続人ごとの法定相続分に応じた取得金額を計算します。
上記事例では、配偶者Bが4分の2、子のCとDがそれぞれ4分の1ずつになりますので、次のように計算します。
配偶者B 1,200万円 × 4分の2 = 600万円
子のCとD 1,200万円 × 4分の1 = 300万円
この金額に対して、相続税の税率をかけて、具体的な相続税額を算出します。
配偶者B 600万円 × 10% = 60万円
子のCとD 300万円 × 10% = 30万円
こうして計算した額の合計がB、C、Dが納付すべき相続税の総額になります。
具体的には、
60万円 + 30万円 + 30万円 = 120万円
このように計算します。
後は、120万円を実際に遺産分割により取得した相続財産の価値で分担することになります。
Dが相続したマンションの価値は2,000万円。
全相続財産6,000万円のうち、3分の1の価値を有しているわけですから、相続税の負担額も3分の1になります。
次のように計算します。120万円 × 2,000万円 ÷ 6,000万円 = 40万円
よって、上記事例でDが納付すべき相続税額は、40万円になります。
引用:国税庁 相続税の税率
引用:国税庁 相続税の計算
マンションの相続税評価額の算出方法
上記の事例では、A名義のマンションの価値を2,000万円として計算していますが、実際にはこの金額も細かい計算をし、「相続税評価額」として算出しなければなりません。
マンションの場合は、建物と土地とで分けて計算します。
建物は、固定資産課税台帳の価格をそのまま用います。
具体的には、固定資産課税明細書において、「価格」や「評価額」として表記されている価格が、建物の相続税評価額になります。
土地は、「路線価方式」と「倍率方式」の2つの計算方法があります。
このうち、路線価方式は、マンションの敷地に路線価が定められている場合のみ利用できます。
路線価が定められているかどうかは次のサイトで確認することができます。
路線価があれば次の計算式で、土地の相続税評価額を算出できます。
路線価 × マンション敷地面積 × 敷地権の割合
一方、路線価がない場合は、次のような倍率方式により計算します。
固定資産税評価額 × 評価倍率 × 敷地権の割合
そして、土地の相続税評価額と建物の相続税評価額の合計額がマンションの相続税評価額になります。
小規模宅地等の特例により土地の相続税評価額を軽減できる
相続した際に、被相続人の事業や居住用に使っていた宅地については、一定の面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額を軽減できる制度があります。
一戸建てはもちろんのこと、マンションが建つ土地に対しても適用できます。
居住用であれば、330平方メートルまでの分について、相続税の課税価格に算入すべき価額を80%減額することができます。
例えば、1000万円が本来の課税価格であれば、200万円とすることができるということです。
この制度を利用することで、土地の相続税評価額を大幅に抑えることができます。
引用:国税庁 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
相続財産の総額が相続税の基礎控除額を超えている場合は相続税の申告が必要になると考えよう
マンション相続ではこの記事で紹介したもの以外にも、様々な相続税の控除制度を利用することができます。
例えば、配偶者の相続税は、法定相続分相当額や1億6,000万円まで掛からない制度が知られています。控除制度を利用することで相続税が掛からないケースも多いです。
ただ、そのためには、控除制度を利用した結果、相続税が発生しないことを税務署に認めてもらわなければなりません。
基本的には、相続税の申告が必要ないのは、遺産総額が相続税の基礎控除額を下回っている場合に限ります。
遺産総額が相続税の基礎控除額を超えているけど、様々な控除制度を利用した結果、相続税が掛からないというケースでは、そのことを税務署にも認めてもらうために相続税の申告を行う必要があると考えておきましょう。
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まとめ
マンションを相続した際にやるべき手続きを見て来ました。
特に、2024年4月1日からは、相続登記が義務化されるため、マンションを相続した場合も3年以内に相続登記申請を済ませるようにしてください。
また、相続登記申請義務は、2024年4月1日以前の相続分にも適用されます。
2024年4月1日以前に相続し、相続登記申請を終えていないマンションも、2024年4月1日から3年以内に相続登記申請を終えるようにしてください。
また、相続したマンションが投資用物件の場合は、相続税が掛かる可能性が高いので、この記事で紹介した計算を行い、相続税が掛かるようでしたら、税務署や税理士に相談して必要な手続きを行ってください。