家族構成が変わったり、老朽化などの理由で、所有しているマンションから他のマンションへ引っ越したい場合には、既存のマンションを売却して新しいマンションを購入する「買い替え」という方法があります。
既存のマンションの売却額よりも新しいマンションの購入額の方が大きければ差額分の費用がかかるのは当然です。
しかしマンションの買い替えには、そのほかにも多額の費用がかかるので注意が必要です。
マンションの買い替えにはどの程度の費用がかかり、節約するためにはどうすべきなのか、詳しく解説していきます。
- マンション売却時、購入時にかかる費用について
- マンション買い替えに使える4つの税制特例について
- マンションの買い替え時の注意点
マンション売却時にかかる費用
買い替え時にマンションを売却する際には次の費用がかかります。
- 抵当権抹消費用
- 仲介手数料
- 収入印紙代
- 住宅ローンの繰り上げ返済手数料
- ホームクリーニングの費用
- 譲渡所得税
- 引越し代
それぞれどの程度の金額になるのか、詳しく見ていきましょう。
抵当権抹消費用
売却するマンションを住宅ローンで購入した場合で、住宅ローン残高が残っているとマンションには抵当権が設定されています。
抵当権とは、もしも住宅ローンが返済されなかった場合に、物件を差し押さえる権利のことです。
売却時には住宅ローン完済と同時に抵当権を解除しなければなりません。
抵当権解除にかかる費用は売主負担となります。
抵当権解除の費用は、不動産1筆あたり2,000円の登録免許税と、司法書士報酬として1万円〜2万円程度です。
売却するマンションに抵当権が設定されていない場合には、この費用はかかりません。
仲介手数料
不動産会社の仲介でマンションを売却する際には不動産会社へ仲介手数料を支払う必要があります。
仲介手数料は法律によって次のように上限が決められています。
売却金額 | 仲介手数料 |
---|---|
200万円以下の部分 | 売買価格の5%+消費税 |
200万円超400万円以下の部分 | 売買価格の4%+消費税 |
400万円超の部分 | 売買価格の3%+消費税 |
売却する不動産価格が400万円超の場合には『(売却価格×3%+60,000円)+消費税』でも計算できます。
売却価格が3,000万円の場合、仲介手数料は最高で96万円+消費税という非常に高額になるため、仲介手数料はマンション売却時にかかるコストのうち、最も大きなものの1つです。
なお、仲介ではなく、不動産会社に直接不動産を買い取ってもらう「買取」や、売主が自ら買い手を見つける方法では仲介手数料は必要ありません。
収入印紙代
不動産の売却額に応じて契約書に次の金額の収入印紙を貼付しなければなりません。
契約書に貼付する収入印紙代はどちらが負担するのかについて明確な決まりはありませんが、売主・買主双方が負担するのが一般的です。
売却金額 | 収入印紙代 |
---|---|
10万円以下 | 200円 |
10万円超50万円以下 | 400円 |
50万円超100万円以下 | 1,000円 |
100万円超500万円以下 | 2,000円 |
500万円超1,000万円以下 | 10,000円 |
1,000万円超5,000万円以下 | 20,000円 |
5,000万円超1億円以下 | 60,000円 |
1億円超5億円以下 | 100,000円 |
一般的なマンションの売却価格であれば、10,000円もしくは20,000円の収入印紙代を負担しなければならないと理解しておきましょう。
なお、上記収入印紙代は、買い替え時にマンションを購入する際にも必要になります。
住宅ローンの繰り上げ返済手数料
住宅ローンを利用している場合には、売却代金で住宅ローンを完済しなければなりません。
この際に、住宅ローンを利用している銀行によっては、返済時に「住宅ローン繰り上げ返済手数料」が必要になります。
繰り上げ返済手数料は銀行によって異なるものの、1万円〜5万円程度かかります。
最近の住宅ローンは繰り上げ返済手数料が無料となっているケースが多いですが、不安な方は完済前に銀行へ確認してみましょう。
ホームクリーニングの費用
有利な条件で売却したいのであれば、売却前に購入希望者が内覧に来た際に、自宅を綺麗にしておく必要があります。
水回りや換気扇などはどうしても自力で綺麗にすることが難しいのでホームクリーニングを依頼するのがよいでしょう。
ホームクリーニングの費用は広さや場所によっても異なりますが、3万円〜10万円程度でしょう。
買い先行で進める場合には、自宅全体をクリーニングした方が売りやすいので、さらに高額な費用がかかることもあります。
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譲渡所得税
マンション売却によって利益が出た場合には譲渡所得税がかかります。
利益がどの程度出たのかについては次の数式で計算します。
「譲渡所得=収入金額-取得費-譲渡費用」
上記の数式で算出した譲渡所得に次の税率を乗じた譲渡所得税が発生します。
所有期間 | 5年以下 | 5年超 | 10年超 所有軽減税率の特例 |
---|---|---|---|
居住用 | 39.63% (所得税30.63% 住民税 9%) |
20.315% 所得税15.315% 住民税 5%) |
①課税譲渡所得6,000万円以下の部分14.21% (所得税10.21%・住民税4%) ②課税譲渡所得6,000万円超の部分20.315% (所得税15.315%・住民税5%) |
非居住用 | 39.63% (所得税30.63% 住民税 9%) |
20.315% 所得税15.315% 住民税 5%) |
20.315% (所得税15.315% 住民税 5%) 20.315% (所得税15.315% 住民税 5%) |
中古マンション売却で高額な利益が出ることはそれほど多くありませんが、不動産価格の上昇などによって利益が出た場合には、利益に対して最大で40%近い税金がかかってしまうこともあると理解しておきましょう。
引越し代
買い替えの場合は、古いマンションから新しいマンションへ引っ越さなければなりません。
この際には引越し代が発生します。
引越し代は距離や荷物の量によって異なりますが、移動距離50km未満・4人家族の引越しで次のような費用がかかります。
- 通常期(5~2月):8万円~10万円程度
- 繁忙期(3月~4月):10万円~15万円前後
なお、売り先行(新しい物件を買う前に古いマンションを売ってしまう)場合には、新しい物件を購入するまでの期間に仮住まいへ居住しなければなりません。
そのため、2回分の引越し代が必要です。
マンション購入時にかかる費用
購入時にもさまざまな費用がかかります。
主なものとして次の費用をあげることができます。
- 仲介手数料
- 不動産登記費用
- 住宅ローンの諸費用
- 印紙代
- 不動産取得税
- 譲渡所得税
- 抵当権設定登記費用
- 火災保険料
- 固定資産税
マンションを購入する際にかかる費用について詳しく解説していきます。
仲介手数料
マンション購入時にも不動産会社の仲介によって不動産を購入する場合には、売却時と同じように『(購入価格×3%+60,000円)+消費税』を上限とした仲介手数料がかかります。
不動産会社の持ち物件を購入する場合や、自分で売り手を見つける場合には仲介手数料はかかりません。
不動産登記費用
不動産を購入したら、購入した不動産の名義を自分名義へ移転させなければなりません。
この所有権移転登記をするために登記費用が必要です。
「登録免許税:土地1.5%(本則税率2%)、建物0.3%(本則税率2%)」
4,000万円のマンションを購入した場合、登録免許税として12万円必要になります。
ここに司法書士報酬が5万円〜10万円程度必要になるので、マンション購入時には、登記費用だけで20万円〜30万円程度の費用が必要になるものと理解しておきましょう。
住宅ローンの諸費用
住宅ローンを利用してマンションを購入する際には、住宅ローン借入時に事務手数料や保証料が必要になります。
ネット銀行では「借入金額×3.3%」と保証料が決められていることが一般的で、例えば3,000万円の住宅ローンを組むのであれば99万円の手数料が必要です。
なお、保証料が手元にない場合には、別途保証料ローンなどの借入金を利用して調達することもできます。
印紙代
不動産を購入する場合には、購入する金額に応じた収入印紙を契約書に貼付する必要があります。
また、住宅ローンを利用すると借入額に応じて定められた収入印紙を金銭消費貸借契約書に貼付しなければなりません。
印紙代は売却する際と同じです。
例えば3,000万円のマンションを3,000万円の住宅ローンを組んで購入する場合には、不動産売買契約書に20,000円、金銭消費貸借契約書(ローン契約書)にも20,000円の収入印紙が必要です。
印紙代だけで40,000円にもなるので、比較的大きな支出となります。
不動産取得税
不動産を購入すると不動産取得税が課税されます。
「不動産取得税額=固定資産税評価額×3%」
原則は4%ですが、2024年3月31日まで特例で3%となっています。
例えば、マンションの固定資産税評価額が2,000万円であれば不動産取得税は60万円です。
抵当権設定登記費用
住宅ローンを組んでマンションを購入する場合には、金融機関がマンションに対して抵当権を設定します。
この際には抵当権設定費用が必要です。
住宅取得資金の貸付け等に係る抵当権の設定登記にかかる登記費用は令和6年3月31日まで「借入額×0.1%」です。
3,000万円の住宅ローンを組んだ場合の登録免許税は3万円です。
買い替えの場合には、前に住宅の抵当権解除と、新しいマンションの所有権移転登記と、新しい住宅ローンの抵当権設定登記を同時に行うのが一般的ですので、トータル30万円程度の登記費用がかかるものと理解しておきましょう。
火災保険料
マンションを新しく購入したら火災保険へ加入しなければなりません。
買い替えであれば、従前の火災保険を引き継ぐことができるので、よほど家の大きさや立地等が変わらない限りはそれほど高額な追加費用は発生しません。
新しく火災保険に加入する場合、東京都の鉄筋マンションであれば地震保険付き保険期間10年で8万円〜10万円程度です。
固定資産税
マンションを購入する場合には、購入した年に相当する期間分の固定資産税を支払わなければなりません。
例えば、半年ちょうど経過したところでマンションを購入するのであれば、半年分の固定資産税の支払いが必要です。
なお、固定資産税の金額は次のように計算します。
「固定資産税=固定資産税評価額×1.4%」
マンションの買い替えに使える4つの税制特例
マンションの買い替え時には次の4つの税制上の特例措置を利用できる可能性があるので、税負担を節約できます。
- 3,000万円特別控除
- 所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
- 特定の居住用財産の買換え特例
- 居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
それぞれの特例の概要について詳しく解説していきます。
3,000万円特別控除
居住している住宅を譲渡した場合には、その譲渡所得から3,000万円の控除を受けることができます。
国税庁によると、この制度を利用できるのは次の条件を満たしている場合です。
- 現に居住している家屋やその家屋と共に譲渡する敷地の譲渡の場合
- 転居してから3年後の12月31日までに、居住していた家屋やその家屋と共に譲渡するする敷地の譲渡の場合
- 災害などにより居住していた家屋が滅失した時は、災害のあった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までに、その敷地だけ譲渡する場合
- 転居後に家屋を取り壊した場合には、転居してから3年後の12月31日までか、取り壊し後1年以内か、いずれか早い日までに譲渡する場合
一般的なマンションの売却で譲渡所得が3,000万円を超えることはほとんどないため、この特別控除によって譲渡所得税はかかりません。
所有期間10年超の居住用財産を譲渡した場合の軽減税率の特例
所有期間が10年超の居住用財産を譲渡した場合は、譲渡所得税の税率が以下のように軽減されます。
税率 | |
---|---|
課税譲渡所得6,000万円以下の部分 | 14.21%(所得税10.21%・住民税4%) |
課税譲渡所得6,000万円超の部分 | 20.315%(所得税15.315%・住民税5%) |
5年以下の所有期間の場合には40%近い税率になることと比較すると大幅に税金が軽減されます。
売却によって譲渡所得が出る場合には、所有期間が10年を経過してから売却した方がよいでしょう。
特定の居住用財産の買換え特例
譲渡した年の1月1日において所有期間が10年を超える居住用財産を売却し、居住用不動産を買い替えて譲渡所得が出た場合には、譲渡所得にかかる譲渡所得税の課税を繰り延べることができるというものです。
税金が免除されるのではなく、支払いを繰り延べる(先延ばしにできる)だけですので注意しましょう。
ただし、買い替え時という最もお金がかかるタイミングでの税金の支払いを先延ばしにできるのは大きなメリットです。
居住用財産の買換えに係る譲渡損失の損益通算及び繰越控除の特例
この特例は、買い替えによって損失が出た場合、その損失を他の所得と損益通算して税金の還付を受けることができる制度です。
源泉徴収によってすでに所得税を支払っている場合、譲渡損失を損益通算することで所得を圧縮できるので、払い過ぎた税金の還付を受けられます。
また、損益通算しても控除しきれない損失がある場合には、翌年以降3年間にわたって給与所得等から控除することができます。
マンションの買い替え時の注意点
マンション買い替え時には売り先行時にも買い先行時にも注意しなければならない点があります。
買い替え時にできる限り費用を節約するための2つの注意点についても頭に入れておきましょう。
売り先行の場合は仮住まいが必要になる
売り先行で買い替えをする場合には、仮住まいが必要です。
売り先行とは、新しい物件を見つける前にこれまで住んでいたマンションを売却することです。
そのため、新しい家が見つかるまでは、どこか仮住まいを見つけなければなりません。
仮すまいの家賃や敷金礼金が必要になりますし、引っ越しも2回になるので引っ越し代も倍かかります。
よほど好条件で買い手が見つかった場合以外、売り先行で買い替えを進めるのは避けた方がよいでしょう。
買い先行の場合はダブルローンになり支払いが大変
買い先行とは、これまで居住していたマンションを売却する前に、新しいマンションを購入する方法です。
買い先行の場合には、新しいマンションを購入するための住宅ローンと既存の住宅で借りていた住宅ローンのダブルローンになる可能性があります。
返済額も自ずと倍になるので生活は大変です。
新しい住宅ローンの元金返済据置期間を設けるなど、既存住宅が売却できるまでの時間的猶予を作りましょう。
マンションの買い替え費用を抑えるポイント
マンションの買い替え費用を抑える方法として次の4点を挙げることができます。
- 売り買い同時で進行させる
- 売りと買いで同じ不動産会社へ依頼する
- 買い先行の場合は住み替えローンを利用する
- 住宅ローンの諸費用は現金で用意する
実際に買い替えを進める前に、マンション買い替えの費用を抑えるための4つのポイントを抑えておきましょう。
売り買い同時で進行させる
売り先行でも買い先行でも買い替えにはリスクがあります。
そのため、できる限り売りと買いを同時に実行するのがベストです。
あらかじめ「いつまでに買い替える」という期限を設け、その期限に売却と購入を同時に行えるよう、長期的なスパンで買い手と購入物件を探しましょう。
場当たり的に買い替えを決めると、売りと買いどちらかが先行し、資金的に大変になります。
売りと買いで同じ不動産会社へ依頼する
売りと買いを同じ不動産会社へ依頼することで、仲介手数料を節約できることがあります。
不動産会社は売却時と購入時の両方で手数料を受け取ることができるので、トータルでディスカウントに応じてくれる可能性があるためです。
別々の不動産会社に依頼するよりも減額の交渉はしやすいので、仲介手数料を節約したい場合には、売りと買いで同じ不動産会社へ依頼しましょう。
買い先行の場合は住み替えローンを利用する
買い先行で買い替えを進める場合には、住み替えローンの利用を検討しましょう。
住み替えローンとは、住み替えの際に従前の住宅ローンの残高と新しい住宅購入資金を1つのローンとして融資する商品です。
例えば、既存の住宅ローン残高が2,000万円、新しい住宅購入資金が3,000万円であれば、住み替えローンでは5,000万円の借入が可能です。
住み替えローンを利用すればダブルローンになって返済額が高額になる心配はありません。
古いマンションが売却できた後には売却代金で繰り上げ返済もできるので、買い先行で古いローンが残る場合には住み替えローンを利用しましょう。
住宅ローンの諸費用は現金で用意する
住宅ローン借入時にかかる諸費用は、できれば現金で用意しましょう。
諸費用分は諸費用ローンなどで借りることもできますが、諸費用ローンの金利は住宅ローンよりも高くなるのが一般的です。
手元に現金があるのであれば、利息負担軽減のために諸費用分はキャッシュで支払うようにしましょう。
まとめ
マンションの買い替えは売却時も購入時にもさまざまな費用がかかります。
買い替え時のポイントは次の通りです。
- 買い替え時にはさまざまな費用がかかるため、ダブルローンや仮住まいをしない計画が重要
- 税金の優遇措置を活用することで費用を抑えられないか検討する