ホームインスペクション(住宅診断)とは、住宅の劣化状況や瑕疵(かし)の有無などの状態を専門家(ホームインスペクター)が調査・診断することです。
瑕疵(かし)
瑕疵とは不動産の場合、土地や建物の欠陥や不具合のこと。
瑕疵には建物の瑕疵、心理的瑕疵、環境的瑕疵、土地の瑕疵がある。
宅地建物取引業法により、2018年4月から中古住宅を売買する際、ホームインスペクションの説明(実施は義務ではありません)が義務付けられるようになりました。
購入予定者は、過去にその物件がホームインスペクションを受けた記録があるか、今後実施予定があるかなどの説明を受けられます。
新築は売主による住宅瑕疵担保保険の加入が義務付けられていますが、保証内容が限られるため、買主によるホームインスペクションの実施をおすすめします。
ホームインスペクションの費用相場と内訳
ホームインスペクションは物件の床面積、築年数、地域、規模などによって費用が異なります。
また基本料金とオプション料金でセットの場合と、一律料金の場合があります。
一般的な基本料金の目安は以下の通りです。
物件 | 費用の目安 | 所要時間の目安 |
---|---|---|
中古一戸建て | 目視による調査:4.5万~7万円 目視以外の調査:6万~12万円 |
目視による調査:約3時間 目視以外の調査:約4時間 |
新築一戸建て内覧会 同行サービス |
目視による調査:4.5万~7万円 目視以外の調査:6万~12万円 |
目視による調査:約3時間 目視以外の調査:約4時間 |
中古マンション | 目視による調査:4万~6万円 | 目視による調査:約2時間 |
新築マンション内覧会 同行サービス |
目視による調査:4万~6万円 | 目視による調査:約2時間 |
オプションには、主に以下のようなものがあります。
オプションの種類 | 内容 | 費用の目安 |
---|---|---|
床下への侵入調査 | 床下へ侵入し基礎や床組み、配管などを調査 | 2~3万円 |
屋根裏の侵入調査 | 屋根裏へ侵入し雨漏り、構造上の危険個所などを調査 | 2~3万円 |
屋根調査 | ドローンカメラでの屋根の調査 | 約2万円 |
基礎鉄筋調査 | 鉄筋探査機で非破壊検査 | 約1万円 |
赤外線調査 | サーモグラフィカメラで断熱材の欠損などを確認 | 約1万円 |
設備機器の調査 | 水漏れや排気ダクトの外れがないかを確認 | 約2万円 |
耐震診断 | 耐震性や受ける被害の程度を確認 | 4万円~6万円 |
詳細な報告書の作成 | 写真入りで詳細な報告書や住宅履歴を作成 | 1~2万円 |
ホームインスペクションの費用負担とタイミング
ホームインスペクションの費用は、基本的に買主負担が一般的ですが、売主負担のケースもあります。
主な実施内容や時期は以下の通りです。
負担する人 | 目的 | ホームインスペクションを 実施するタイミング |
注意点 |
---|---|---|---|
売主 | ・住宅瑕疵担保保険の付保要件を満たせば、売却後欠陥が見つかっても保険が使える | 不動産会社との仲介契約を締結した後で、売却活動の開始前 | 不動産会社にあっせんしてもらったインスペクターに実施してもらうこと |
買主 | ・売買後の負担軽減 ・税制対策 軽微な欠陥の場合、売主負担で改善してもらえる・重大な欠陥の場合、売買契約をせずにすむ |
買付証明書の提示後、売買契約の締結前 | 買付証明書に「インスペクションに合格した場合のみ購入する」と明記すること |
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ホームインスペクションの調査対象
厳密にいうと、宅建業法に基づく建物状況調査とホームインスペクションは調査範囲が異なります。
宅建業法に基づく建物状況調査の対象は、建物の構造耐力上主要な部分や雨水の侵入を防止する部分で、具体的には以下のような箇所があります。
建物の構造耐力上主要な部分に係る調査対象の例 | 基礎、土台及び床組、床、柱及び梁、外壁及び軒裏、バルコニー、内壁、天井、小屋組 |
雨水の侵入を防止する部分に係る調査対象部位の例 | 外壁、内壁、天井、屋根 |
引用:国土交通省|改正宅地建物取引業の施行について|インスペクション関連の規定の内容
いっぽう多くのホームインスペクション会社では、建物状況調査に加えて以下のような箇所も調査対象です。
- 水回り(キッチン、トイレ、浴室など)
- 建具
- サッシ
- 屋根裏
- 床下
- 塀・フェンス・門
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ホームインスペクションの流れ
売主負担のホームインスペクションは「ホームインスペクションの費用負担」でも解説したように、不動産会社と仲介契約をした後、不動産会社にインスペクターを紹介してもらいましょう。
なぜなら不動産会社のあっせんであれば、瑕疵担保保険加入の際に必要な条件「既存住宅状況調査技術者」かつ「住宅瑕疵担保責任保険法人の登録検査事業者」によるインスペクションを受けられるからです。
売主の負担によるホームインスペクションは、売却活動前に行われます。
ここからは買主負担によるホームインスペクションの流れを解説します。
ホームインスペクションの流れは以下の通りです。
- 依頼・見積
- 申し込み・スケジュール調整
- 書類の準備・送付
- ホームインスペクションの実施
- 結果報告
それぞれ解説します。
1. 依頼・見積
ホームインスペクションを依頼する会社(インスペクション会社)に、ネットや電話で問い合わせます。
物件の情報や希望する調査内容を伝え、調査方法や金額を確認し見積を依頼しましょう。
瑕疵担保保険に加入するため、インスペクション会社が「住宅瑕疵担保責任保険法人の登録検査事業者」であり、担当者が「既存住宅状況調査技術者の資格保持者」かも確認できれば完璧です。
2. 申し込み・スケジュール調整
インスペクション会社が決まったら、申し込みとスケジュール調整を行います。
解錠してもらう都合上、売主・建築会社・仲介業者などとのスケジュール調整が必要のため、余裕をもって早めに連絡しましょう。
3. 書類の準備・送付
以下は揃えておきたい書類の一例です。
- 住宅地図(必須)
- 平面図または間取り図(必須)
- 立面図(必須)
- 販売図面
- 建物配置図
- 矩計図(かなばかりず・立面図の詳細版)
- 建築確認申請書
- 仕様書
- 壁量計算書
- 建築確認済証
- 確認申請書
- 検査済証
- 地盤調査書
- 地盤改良施工報告書(地盤改良している場合のみ)
すべてを揃える必要はありませんが、データが多ければ多いほど、正確かつ詳細な調査結果が出せます。
4. ホームインスペクションの実施
実施当日は、ホームインスペクターが住宅の調査を実施します。
住宅検査員、住宅診断士、建物検査士などの資格を持ったプロが実施するケースが多いですが、ホームインスペクターになるには特定の資格は必要ありません。
調査に要するおおよその時間は「ホームインスペクションの費用と内訳」の表を参照してください。
5. 結果報告
依頼主は調査完了後、当日から数週間以内に報告書を受け取ります。
多くの場合、報告書の受領と同時に、ホームインスペクターから検査で見つかった問題個所や、修繕の提案などの解説を受け、疑問や質問にも回答してもらえます。
業者によっては報告書の郵送だけで、解説がない場合もあるので、事前に確認しましょう。
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ホームインスペクションのメリット(売主の場合)
売主から見たホームインスペクションには、以下のようなメリットがあります。
- 契約後のトラブルを回避できる
- 合格すれば物件をより売りやすくできる
- 合格すれば瑕疵担保保険を付保できる
それぞれ解説します。
契約後のトラブルを回避できる
ホームインスペクションを実施することで、契約後に瑕疵が見つかってトラブルになるのを防げます。
ホームインスペクションで欠陥が見つかったとしても、欠陥があることを買主に公表して契約をした場合、契約不適合責任を問われることはありません。
もちろん見つかった瑕疵を修繕した場合、買主の安心感に繋がります。
契約不適合責任
契約書の内容と異なるものを売った場合に売主が負う責任のこと。
瑕疵(欠陥)がある事実を隠して売った場合、契約不適合責任が問われる。
瑕疵には建物の瑕疵のほか、心理的瑕疵、環境的瑕疵、土地の瑕疵もある。
合格すれば物件をより売りやすくできる
ホームインスペクションに合格していれば、買主に安心感を与えられるので、契約の後押しになります。
これから販売開始する物件であれば、ホームインスペクションを実施する前より、高値で販売できる可能性も増えます。
合格すれば瑕疵担保保険を付保できる
ホームインスペクションに合格すれば、瑕疵担保保険を付保する要件の一つになります。
瑕疵担保保険とは、売却後に瑕疵(欠陥)が見つかった場合、補修費用の一部を保険金で賄えるシステムです。
ホームインスペクションに合格し、瑕疵担保保険を付保できれば、さらに物件の価値は高まります。
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ホームインスペクションのメリット(買主の場合)
買主から見たメリットは以下の通りです。
- 安心して取引できる
- 購入後のコストを削減しやすい
- 合格すれば瑕疵担保保険を利用できる
それぞれ解説します。
安心して取引できる
契約前にホームインスペクションを実施することで、以下のような対応が可能になります。
瑕疵が見つからなかった場合 | 安心して契約に進める |
軽微な瑕疵が見つかった場合 | 売主や施工業者に改善を求められる |
重大な瑕疵が見つかった場合 | 購入をキャンセルできる |
購入後のコストを削減しやすい
ホームインスペクションを実施すると、購入後の経済的負担を軽減できる可能性があります。
契約前であれば先に述べたように、売主負担で修繕してもらえますし、契約後にリフォームする予定であれば、リフォーム前に実施することで、問題個所をリフォーム時に修繕できリフォーム費用を積算しやすくなります。
瑕疵担保保険を利用できる
ホームインスペクションに合格していれば、瑕疵担保保険の利用が可能です。
瑕疵担保保険を利用すると、瑕疵が見つかった際に保険金が下りるのはもちろんのこと、住宅ローン控除や登録免許税の軽減などの税制優遇を受けられます。
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ホームインスペクションの注意点
ホームインスペクションの注意点は以下の3点です。
- 依頼はなるべく早めに
- 中立な立場のインスペクション会社を選ぶ
- すべての瑕疵がわかるわけではないと認識する
それぞれ解説します。
依頼はなるべく早めに
ホームインスペクションを依頼する際、契約前のギリギリではインスペクターや施工業者とスケジュールが合わないことも。
また他にも購入希望者がいる物件の場合、実施までに時間がかかると他の希望者に購入されてしまうかもしれません。
ホームインスペクションの依頼は、なるべく早めにしておきましょう。
中立な立場のインスペクション会社を選ぶ
売主がホームインスペクションを依頼する場合は、仲介する不動産会社にあっせんしてもらう方が安心です。
しかし買主は逆に不動産会社の紹介ではなく、自分自身で数社当たって、中立な立場のインスペクション会社を選びましょう。
不動産会社の紹介は、売主に都合の良い診断しかしないインスペクション会社になる危険性があるからです。
すべての瑕疵がわかるわけではないと認識する
すべての瑕疵がわかるわけではないということは認識しておきましょう。
ホームインスペクションで契約不適合責任を免れられるのは、建物に関する瑕疵についてのみです。
殺人事件などの忌まわしい事件現場であったことなどの心理的瑕疵がある場合は、売買契約書に明記する必要があります。
あとあと契約不適合責任を追及されないためにも、売主は知っている事実を自ら告知することが重要です。
また各部屋への通電確認や傷・汚れのチェックはホームインスペクションには含まれない場合がほとんどです。
傷や汚れは個人で許容範囲が違うため、判断や指摘は難しいためです。
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まとめ
ホームインスペクションとは、住宅の劣化状況や瑕疵の有無を専門家が調査診断することです。
調査の対象は建物全般ですが、調査の内容はインスペクション会社や建物の状況や要望によって異なります。
ホームインスペクションの基本的費用の相場とおおまかな所要時間は以下の通りです。
- 戸建て住宅:費用相場は4.5万~12万円・所要時間は3~4時間
- マンション:費用相場は4万~6万円・所要時間は約2時間
ホームインスペクションの費用は、多くの場合買主が負担しますが、中には売主が負担することもあります。
ホームインスペクションを実施する時期は以下の通りです。
- 売主負担で実施する場合:不動産会社と仲介契約を締んだ後~売却活動前
- 買主負担で実施する場合:売買購入申し込み後~売買契約の締結前
ホームインスペクションを実施することは、売主にとっても買主にとってもメリットがあります。
売主にとってのメリットは以下の通りです。
- 契約後のトラブルを回避できる
- 合格すれば物件をより売りやすくなる
- 合格すれば瑕疵担保保険を付保できる
買主にとってのメリットは以下の通りです。
- 安心して取引できる
- 合格すれば物件をより売りやすくなる
- 合格すれば瑕疵担保保険を付保できる
住宅購入は多くの場合、一生に何度もない大きな買物です。
ホームインスペクションを実施しないと、あとあと多額の修繕費用が発生することになりかねません。
ホームインスペクションの費用は、後悔しない住宅購入の必要経費と捉えることをおすすめします。
この記事を参考にしていただき、費用でも納得でき、安心なインスペクション会社を見つけていただければ幸いです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考:ホームインスペクションの費用相場はどれくらい?効果や負担者について解説 | ポラスの不動産(戸建・マンション・土地)売却専門サイト
参考:ホームインスペクションの費用相場を公開!依頼タイミングや負担者、導入効果も解説
参考:ホームインスペクションの費用相場はいくら?効果や注意点を解説!