不動産鑑定が必要なケースとは?評価要因から費用相場までわかりやすく解説

  不動産鑑定が必要なケースとは?評価要因から費用相場までわかりやすく解説

不動産評価の算定方法の一つとして不動産鑑定があります。本記事では、不動産鑑定が必要なケースとはどのような場面なのか、実際の評価基準や依頼の費用について詳しく解説していきます。

宮本建一
【執筆・監修】宮本建一

金融機関に30年あまり在籍し、預金業務や融資業務、経理事務および内部監査業務、審査管理業務を経験しました。 これらの知見をもとに、金融関連(ファクタリング、資金調達、運転資金)、FP関連(保険、不動産、介護)、および法律関連(債務整理、遺産相続)を中心に執筆しています。 また、金融機関行職員を対象とした通信講座の教材執筆にも携わっています。

【保有資格】・FP2級 ・AFP ・金融内部監査士 ・簿記2級

不動産の購入や売却、相続などを行う場合、不動産評価を知ることが必要です。

不動産評価の算定方法の一つとして不動産鑑定があります。

国土交通省が定めた「不動産鑑定評価基準」により、国家資格である不動産鑑定士のみが算定可能な評価方法です。

不動産評価を「不動産鑑定評価書」として作成することで明示されます。

不動産鑑定評価書は、裁判所等公的な機関で不動産評価の有効性が認められている書類です。

本記事では、不動産鑑定が必要なケースとはどのような場面のときであるのかについて解説します。

不動産鑑定と不動産査定の違いや不動産鑑定を行うメリット・デメリットに関しても紹介しますので、不動産評価を正確に知る必要のある方はぜひ参考にしてください。

不動産鑑定が必要な理由

国家資格である不動産鑑定士のみが行える不動産評価が不動産鑑定です。

国土交通省が定めた「不動産鑑定評価基準」をベースに、不動産鑑定を行います。

ここでは不動産会社が行う不動産査定との違いについて紹介し、あわせて、不動産鑑定に影響を及ぼす要因および不動産鑑定評価の方法についても解説します。

不動産鑑定評価とは

不動産鑑定評価は、「不動産の鑑定評価に関する法律」では、国家資格である不動産鑑定士を持ったものが実施可能な業務と明記されています。

不動産(土地もしくは建物、またはこれらに関する所有権以外の権利)の価値を査定し、その結果を価額に表示します。

不動産査定との違い

不動産価格を判断する指標として、不動産鑑定以外に「不動産査定」があります。

不動産査定とは、対象となる不動産が売却可能金額を、不動産会社が独自で査定して表示したものです。

同じ不動産であっても、不動産会社によっては、価格が異なるケースがあります。

不動産鑑定は、不動産鑑定士が計算した価額であり、裁判所等公的機関でも採用される不動産鑑定評価です。

不動産鑑定に影響を及ぼす要因

不動産鑑定に影響を及ぼす要因として次の3点があるので解説します。

  • 一般的要因
  • 地域要因
  • 個別的要因

一般的要因

一般的要因とは、一般の経済社会における不動産のあり方、および価格の水準に影響を与える要因をいいます。

一般的要因の主なものとして、以下の4つの要因があります。

地域要因

地域要因は、不動産が位置する地域の特性を踏まえて影響を与える要因です。

大きく分けて「宅地地域」「農地地域」「林地地域」の3つの地域があり、さらに「宅地地域」は「住宅地域」「商業地域」「工業地域」に区分されます。

具体例として、宅地地域の場合、日照・温度・湿度・風向等の気象の状態や 商業施設、または業務施設の種類や規模等の状態等が加味されます。

個別的要因

個別的要因は、該当する不動産(土地・建物・建物およびその敷地)のそれぞれが構成されている要因をいいます。

土地における個別的要因として、「宅地」「農地」「林地」「見込地および移行地」の4つがあり、建物における個別的要因は、築年数や設計・設備等の機能性等があります。

建物およびその敷地における個別的要因は、賃借人の状況や賃貸借契約内容等があります。

不動産鑑定評価の方法

不動産鑑定評価の方法には3つの方法があります。

  • 原価法
  • 収益還元法
  • 取引事例比較法

原価法

原価法とは、対象不動産における再調達原価を算出し、再調達原価に減価修正を行うことにより対象不動産の試算価格を求める方法です。

再調達原価とは、対象となる建物と同じものを、価格時点でその土地に建てた場合、いくらかかるのかを算出した価格です。

原価修正とは、算出した時点で、建物の老朽化や、土地そのものの価値が低下している場合に差し引く必要のある価格を指します。

原価法は、対象不動産が一戸建ての建物である場合において、有効な不動産鑑定方法です。

収益還元法

収益還元法とは、対象不動産が将来産み出すであろうと思われる純収益の現在価値の総和を求めることにより、試算価格(収益価格)を求める手法です。

収益還元法には、2つの手法があります。

  • 直接還元法
  • DCF法

直接還元法は、収入から諸経費を差し引いた一定期間の純収益を、予定利回りで割ることで算出する手法です。

DCF法は、Discount Cash Flow法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)の略で、将来将来産み出すであろうと思われる純収益を現在価値に置き換えて計算して出す手法です。

収益還元法は、賃貸用不動産や賃貸以外の事業のために使われる不動産の価格を求める場合に用いられます。

取引事例比較法

取引事例比較法とは、多くの取引事例から適切な事例の選択を行い、必要に応じて事情補正や時点修正を行うことで算出する方法です。

近隣の事例や、該当不動産の立地や築年数、接面道路や建物の構造といった類似した取引事例を比較して試算価格を算出する場合に使われます。

不動産鑑定評価が必要な具体的なケース

不動産鑑定評価が必要な具体的なケースとして、以下の5点がありますので、順を追って紹介します。

  • 相続財産を分割する場合
  • 個人間で不動産売買を行う場合
  • 不動産を担保にして融資を受ける場合
  • 離婚により財産分与が必要な場合
  • 公的機関が土地価格を算出する場合

相続財産を分割する場合

被相続人の財産に不動産がある場合、不動産鑑定評価が必要です。

預金の場合、財産の金額が明らかなので分割は容易です。

不動産においては、価格が明確ではありません。

相続人間のもめ事をなくすために、不動産鑑定士を利用して不動産鑑定評価を行ってもらうことで、信頼できる不動産評価が可能です。

個人間で不動産売買を行う場合

個人間で不動産売買を行う場合においても、不動産鑑定を利用します。

個人間売買であるため、不動産業者が存在しません。

不動産会社が仲介していれば、不動産査定を行うことで双方納得して売買が可能です。

しかし、仲介役の不動産会社が存在しないため、不動産価格を中立な立場で不動産を評価する必要があります。

不動産鑑定により、後々トラブルに発展することが防げ、安心した取引が見込まれます。

不動産を担保にして融資を受ける場合

不動産を担保にして融資を受けるときにも、有効な手段として考えられます。

担保として金融機関が差し出す不動産の鑑定評価書があれば、金融機関においても、信用力のある不動産評価であるため、審査がスムーズに行われることが期待できます。

離婚により財産分与が必要な場合

離婚により財産分与が必要な場合も、不動産鑑定により、後々のトラブルを回避できます。

夫婦で築き上げてきた財産分与を行う場合、正当に不動産を評価されなければなりません。

不動産鑑定の活用により、信頼性の高い不動産評価が得られます。

公的機関が土地価格を算出する場合

国土交通省や都道府県等公的機関が土地価格を算出する場合にも不動産鑑定が必要です。

国土交通省が発表する公示地価や、都道府県が発表する基準地価を調査するのは、不動産鑑定士です。

公示地価や基準地価は、国税庁が発表する路線価や、市区町村の固定資産税評価の目安にもなっています。

不動産鑑定を行う際の流れおよび手順

不動産鑑定の流れについて、どのような手順で行われるのかを順を追って紹介します。

  1. 不動産鑑定士を探す
  2. 不動産鑑定士に相談および見積もりの依頼
  3. 必要書類の提出
  4. 不動産鑑定士による調査および評価作業の実施
  5. 不動産鑑定評価書の納品

1. 不動産鑑定士を探す

不動産鑑定依頼者は、はじめに不動産鑑定士を探さなければなりません。

不動産鑑定士を見つける手段として、紹介やインターネット検索によるのが一般的です。

対象不動産が所在する地元の不動産鑑定士事務所を利用するのが、より正確な評価額を算出できる可能性が高いでしょう。

2. 不動産鑑定士に相談および見積もりの依頼

依頼する不動産鑑定士が決まれば、相談し、見積もりを依頼します。

調査してもらいたい不動産の特性やエリアにより、不動産鑑定士にも得意不得意があるためです。

また、調査方法により、費用は事務所によりばらつきがあるため、複数の不動産鑑定士事務所の見積もりを取っておくことをおすすめします。

3. 必要書類の提出

複数の事務所の見積書の比較・検討し、依頼する事務所が決まれば、必要書類を確認し準備します。

主な必要書類として、以下のものがあります。

  • 納税通知書
  • 登記簿謄本
  • 建物図面
  • 地積測量図など

他にも、事務所により必要書類が異なる場合があるので、必ず確認するようにしましょう。

4. 不動産鑑定士による調査および評価作業の実施

依頼者から必要書類が提出されると、不動産鑑定士は、当該不動産の調査を行います。

調査には2種類あります。

書面調査」「現地調査」です。

書面調査とは、市区町村や法務局から不動産にかかる書類を取り寄せる調査です。

市区町村で取り寄せる書類として、都市計画や道路、開発許可や建築許可の証明、埋蔵文化財などの調査等があります。

法務局での書類として、謄本や公図、地積測量図等があります。

現地調査は、実際の場所に不動産鑑定士が現地に赴き調査することです。

当該不動産である土地や建物および、当該不動産周辺の環境や施設を調査します。

5. 不動産鑑定評価書の納品

調査が終わると、不動産評価を行い、完了すれば不動産鑑定評価書を作成して依頼者に納められます。

依頼者に鑑定内容について説明し、不動産鑑定は終了します。

依頼から、不動産鑑定評価書の作成まで、2~3週間ほどかかるのが一般的です。

不動産鑑定の相場について

通常、不動産鑑定の相場として、以下のような価格が相場となっています。

不動産 費用
土地 約20万円
一戸建て 約20~25万円
マンション 約30万円

費用は、法律での決まりがないため、それぞれの事務所が自由に設定しています。

依頼者は、見積もり時に金額が妥当であるのかを十分検討する必要があるといえるでしょう。

そのためにも、繰り返しになりますが、複数の事務所の見積書を取って比較することを推奨します。

不動産鑑定を行うメリット

不動産鑑定を行うメリットとして、以下の2点があるので、それぞれ紹介します。

  • 適切な不動産価値がわかる
  • 鑑定評価書の法的有効性

適切な不動産価値がわかる

不動産鑑定を行うメリットとして、適切な不動産価値がわかる点があります。

不動産会社が行う不動産査定も、不動産価格を評価する方法としてあります。

不動産査定は、過去の売買事例を参考にして不動産会社が決めるのが一般的です。

不動産会社によって価格が異なるケースがあるため、適切な不動産価値にブレが生じます。

不動産鑑定を行うことで、適切な不動産価値が認識できます。

鑑定評価書の有効性

鑑定評価書は、国土交通省が定める「不動産鑑定評価基準」をもとに作成されています。

不動産会社が提示する不動産査定には法的効力がありません。

不動産鑑定は、国が定めた基準による評価であるため、信頼性が高い不動産評価といえるでしょう。

離婚時における財産分与や遺産相続等、不動産評価が必要な場合、裁判所など公的機関は、不動産鑑定評価書を重要な資料として活用します。

そのため、不動産に関するトラブルから回避できます。

不動産鑑定を行うデメリット

一方で、不動産鑑定を行うデメリットとして次の点があります。

  • 費用がかかる
  • 時間がかかる

費用がかかる

不動産鑑定を専門家の不動産鑑定士に依頼するため、費用がかかります。

費用は、不動産鑑定事務所や、鑑定する不動産により費用が異なります。

慎重に不動産鑑定事務所を選ぶ必要があるでしょう。

時間がかかる

時間がかかる点も不動産鑑定のデメリットとしてあります。

現地の調査や、不動産鑑定評価書の作成を不動産鑑定士は行います。

通常、2週間から3週間近くかかるのが一般的です。

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まとめ

不動産鑑定は、不動産鑑定士だけが認められている不動産評価方法の一つです。

不動産会社が算出する不動産査定とは異なり、不動産鑑定は、公的な不動産評価としてその有効性が認められています。

例えば、離婚時における財産分与や遺産相続等、不動産に関するトラブルが起こった場合、裁判所は不動産鑑定評価を不動産評価として採用しています。

公的な不動産評価として有用である反面、不動産鑑定評価のデメリットは、費用や時間がかかる点です。

不動産鑑定評価が本当に必要なのかどうか、依頼する前に十分検討する必要があります。

本記事を読んで、不動産鑑定を理解し、上手に利用していただければ幸いです。

参考:
国土交通省|不動産鑑定評価基準
不動産の鑑定評価に関する法律 | e-Gov法令検索
【わかりやすい】不動産鑑定とは何か?不動産査定との違いを徹底解説!
不動産鑑定士とは何をする仕事?仕事内容や独占業務について解説

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