「差し押さえ」という言葉は、日常生活でも聞くことはありますが、その意味をご存知ですか?
差し押さえとは、普通に生活している人ならまず関係することはない「非常事態」ですが、もしかしたら明日、自分が差し押さえを受ける可能性もあるのです。
しかし基本的な知識を備え、さらに頼れるパートナーを見つけることができれば、ピンチから脱出できるはずです。
そこでこの記事では、不動産の差し押さえについて、基本事項や注意事項を説明し、さらに不動産を差し押さえられた場合の有効な対策まで銀行員が解説します。
(法律用語では「差押え」と表記する場合が多いですが、この記事では「差し押さえ」で統一します。)
差し押さえとは?〜差し押さえの基本事項
まず、差し押さえの基本事項や、注意点を解説するところから始めましょう。
差し押さえとは?
差し押さえを法律用語的に表現するなら「債務の弁済をしない債務者に対し、換金可能なモノを債権者が処分できる状態を保つため、所有者や債務者が勝手に処分できないようにすること」と言ったところです。
要は、支払いや返済を求める権利のある者が、支払う義務があるのに払わない(払えない)人の財産を処分するために、とりあえず勝手に処分されないように押さえておくということなのです。
そして「押さえておく」手続きが差し押さえで、裁判所に申し立てをして認められれば、差し押さえができるという仕組みです。
誰が差し押さえをするの?
差し押さえは税金の滞納で役所が実施する場合と、ローンなど借金返済で金融機関が担保になっている不動産を差し押さえる場合の2つが主流です。
中でも税金滞納の差し押さえが多いと言えます。
それはなぜかと言うと、税金は公共の財源なので、納税しない(できない)人や脱税する人に厳しく対処しないと、真面目に納税している多くの人たちに不公平感が生まれ、ひいては納税事態が滞る恐れがあるからです。【参考①】
そのためか、役所が税金滞納で差し押さえをするスピードは早く、むしろ金融機関の差し押さえは風評を恐れて躊躇することもある(「銀行が借金のカタに担保を差し押さえた」などと言われたくない)点と、大きく違います。
【参考①】
法令に基づく「滞納処分」をやむを得ず行う場合があります/習志野市ホームページ
なぜ差し押さえをするのか?
なぜ差し押さえをするのか?その理由は、差し押さえをすれば、持ち主が勝手に処分できないからです。
税金を徴収する国や都道府県・市町村と、融資をしている金融機関や消費者金融などは、すべて「債権者」です。
そして払ってもらう税金やローン残金を債権と呼びます。
滞納が起きると、国や金融機関は自分達が回収(払ってもらう債権者の立場では「回収」と表現します)しなければ行けない債権を、所有者が勝手に処分できないようにする必要があり、これを「債権保全(債権を回収できるように保つこと)」と呼びます。
つまり「税金やローン滞納になると、不動産など換金して回収できる資産を、所有者が勝手に処分できないようにする債権保全の対策が差し押さえ」と言うことになります。
差し押さえは裁判所に申請して行なう厳正な処理なので、差し押さえられた不動産などを勝手に処分すると、法律で罰せられる可能性があります。
差し押さえられる可能性がある財産とは?
原則として、差し押さえる資産は、差し押さえをする側が決めるものですが、そこにも一定の原則があります。
たとえば税金滞納で差し押さえをする場合には、主に以下の基本条件があり、これは金融機関が差し押さえをするときにも共通しています。
<差し押さえられる可能性がある財産の基本条件>
- 第三者の権利を害するおそれが少ない
滞納者本人や家族ではなく、無関係の他人が差し押さえで困るような財産はダメ - 滞納者の生活維持、事業継続を妨げない
最低限の生活をする権利は剥奪できないので、自宅を差し押さえるケースは少ない
同様に、商売の元になる店舗なども差し押さえを避ける場合がある - 換金しやすい
差し押さえのあとで、換金しにくい財産や、換金するまでに複雑な手順が必要になる財産は避けられることもある
では、こうした基本条件から、実際に差し押さえを受ける可能性がある、言い換えれば差し押さえされやすい資産には、どのようなものがあるでしょうか?
<差し押さえされやすい財産>
- 現金(ただし全額は不可 最低限、残すべき金額などが決められている)
- 預貯金や国債、有価証券
- 動産(自動車や家財など)
- 登記された不動産(未登記でも、滞納者の所有物と特定できれば差し押さえ可能)
ちなみに、会社員の給料も差し押さえられてしまうことがあります。
ここで、実際私が聞いた話をご紹介します。
それは、私の住んでいる県内のある地方都市で、税金滞納から給料を差し押さえたのですが、市のやりかたが冷たすぎると騒がれてしまったそうです。
このように、差し押さえすることができるとはいえ、トラブルになるのは避けたいもので、また換金した時に、より多く回収できる点から、不動産を差し押さえるのがよくあるパターンになっています。
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差し押さえを解除する方法
繰り返しになりますが、差し押さえされた不動産は、まだ自分名義であって処分することはできません。
では、差し押さえを解除するにはどうしたらいいのでしょうか?
滞納税金やローン返済滞納金をすべて支払う
ひとことで言えば「払っていないから差し押さえられたわけなので、払えばいい」と言うことになります。
しかし、これは理想論だとも言えます。
なぜなら、支払うお金がないから税金の滞納が重なったり、ローン返済が滞納したりで差し押さえになっているのですから。
一方、もう一つ注意点があります。
それは、幸いにして親や祖父母などの支援を受けられることになり、滞納している税金やローン返済をすべて支払える事になったとしても、その期限に間に合わない場合があるのです。
税金では督促状などで「何年何月何日までに支払うこと」と期限がある場合、その期限に間に合わなければ差し押さえを解除できずに強制的な売却(「競売」ケイバイと読みます)をされてしまうこともあるからです。
これはローン返済も同じで、返済が滞納すると一括して全額(滞納金だけでなくローン残金をすべて)返済を求められることがあり(こちらは「期限の利益の喪失」と呼びます)、そうなってくると、返済滞納金だけを用紙できても「時間切れ」になってしまう可能性があるのです。
自己破産
自己破産をした人の財産は、原則として差押えができなくなります。
自己破産は「債務も財産もすべて手放す代わりに、借金からも解放される」という法的な救済措置なので、自己破産が裁判所から認められた人に差し押さえは禁止されています。
しかし、そもそも自己破産する人で不動産などの財産を持っている人はほとんどいない(財産があるなら、そもそもそれを売って支払いができたはず)ので、こちらも差し押さえの解除という点では、あまり現実的とはいえません。
不動産の任意売却
ここまで、現実的でない対策ばかりになってしまいましたが、差し押さえ解除をするための、実現可能な対策が不動産の任意売却です。
任意売却(「任意売買」あるいは「任売・ニンバイ」とも)は、不動産の持ち主が購入者を探して売却する、よくある不動産の取引を指します。
ここでいう任意とは、所有者が主導で売却できるといった意味です。
いっぽう、これと逆なのが「競売・ケイバイ」になります。
競売はローンの担保になっている不動産を、返済が滞納したために金融機関が強制的に売却したり、税金滞納で役所が差し押さえた不動産を換金する手段です。
裁判所経由で購入希望者を募集し、競争入札で(ここから競売と呼ばれる)最も高い価格を提示したところが購入できる流れです。
競売は、こうしたいわくつき物件を専門に扱う業者など、その道のプロとも言える不動産業者が集まるので、売却価格は相場よりかなり低い金額になってしまいます。
さて、任意売却に話を戻しますが、任意とはいっても担保になっている場合や、税金滞納で差し押さえられている不動産を勝手に処分することはできません。
そのため、任意売却で差し押さえを解除するには債権者(金融機関や役所)の許可が必要になるのですが、原則として滞納している税金やローン残高より高い金額でないと、任意売却は許可してもらえません。
しかし任意売却も競売と同じで、困っている足元を見られ安く買い叩かれる事が多いのです。
そうなると任意売却は許可してもらえず、そのまま時間が経過すれば、今度は競売というタイムリミットが迫ってきます。
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差し押さえで困ったら頼れるプロに相談〜まとめ
差し押さえの解除で任意売却を考えても、高いハードルがあり、乗り越えるのは困難です。
だからといって何もしなければ、競売で不動産が強制売却されてしまいます。
そんなとき、専門家に相談すると解決への道が開ける場合があります。
たとえば、私も銀行員として住宅ローン支払いが困難な人からよく相談を受けます。
そこで任意売却を考えるなら、知己で信頼できる不動産業者などを紹介することがあります。
また自分で探す人もいますが、相談相手次第で結果は大きく変わってきます。
不動産の差し押さえで困ったなら頼れるプロに相談すれば、解決への道も開けるはずです。
そのために相談相手の選び方が重要になってきます。たとえばこちらのマスターズコンサルティングさんはおすすめできる「頼れるプロ」です。
些細なお悩みでもまずは一度相談してみてはいかがでしょうか。