【2023年相続税法改正】生前贈与加算の期間延長を徹底解説!

  【2023年相続税法改正】生前贈与加算の期間延長を徹底解説!

この記事では、2023年税制改正による生前贈与加算の期間延長について解説していきます。課税の対処法もご紹介しておりますので、計画的に子供や孫へ資産を移し、相続税の支払いを抑えるのに役立てば幸いです。

手塚 大輔
【執筆・監修】手塚 大輔

地方銀行に10年弱勤務した後、現在は飲食店を起業しており、プロのライターとしてもSEO記事、コピーライティングなどを行なっております。 銀行では、預金業務、カードローン、住宅ローン、企業の運転資金、設備資金、起業開業支援、保険販売、投資信託販売などの他、企業の決算書の審査など経験。

【保有資格】ファイナンシャルプランナー

2023年の税制改正によって、生前贈与加算の期間が延長されることが決まりました。

これまでは、被相続人死亡の3年前までの贈与は相続財産に含めて相続税が課税されていましたが、今後は被相続人死亡の7年前までの贈与が相続財産に含まれることになります。

これによって、相続税が多く発生する可能性があります。

なぜ、このような制度改正が行われ、どのように対処をすべきなのか詳しく解説していきます。

この記事を読むとわかること
  • 生前贈与加算とは
  • 生前贈与加算の期間延長について
  • 加算期間延長の背景
  • 生前贈与加算期間延長への対処法

生前贈与加算期間とは?

生前贈与加算とは、被相続人からの贈与について、被相続人が死亡する一定期間内に行われたものに対しては相続財産とみなして、被相続人死亡時に相続税の課税対象とするというものです。

そして、生前贈与加算期間とは「被相続人が死亡する何年前まで相続財産とみなすのか」という期間のことです。

生前贈与加算期間を決めておかなければ、相続財産を減らすために親族等に駆け込みで贈与を行う可能性があります。

例えば「余命1年」と宣告された人が、相続財産を減らすために、急いで相続人に対して贈与を行っても、その贈与は被相続人死亡後に相続財産と見なされるので贈与の意味がなくなります。

なお、2023年12月末までの贈与に関しては、生前贈与加算期間は「被相続人の死亡前3年以内」と決められています。

死亡後に加算する財産

生前贈与加算に該当する財産は国税庁によると次のように明記されています。

『被相続人から生前に暦年課税に係る贈与によって取得した財産のうち相続開始前3年以内に贈与されたものです。3年以内であれば贈与税がかかっていたかどうかに関係なく加算します。したがって、基礎控除額110万円以下の贈与財産や死亡した年に贈与されている財産の価額も加算することになります。』

基本的には、被相続人が死亡する3年以内に贈与された全ての財産が生前贈与加算の対象になります。

この中には、暦年贈与によって110万円の非課税枠の範囲内で贈与を受けていたものも含まれます。

なお、生前に贈与を受けており、すでに贈与税を支払っているものについては、相続財産に引き直して相続税からすでに納めた贈与税を差し引くことができるので、贈与税を払いすぎてしまう心配はありません。

毎年110万円ずつ、親から贈与を受けている人も多いかもしれませんが、贈与が生前贈与加算期間に該当すると、相続財産と見なされる点に注意しましょう。

死亡後に加算しない財産について

生前贈与加算期間に贈与をしても、次の財産であれば相続財産に加算されません。

  • 贈与税の配偶者控除の特例の適用を受けている、または受けようとする財産のうち、その配偶者控除額に相当する金額
  • 直系尊属から贈与を受けた住宅取得等資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた教育資金のうち、非課税の適用を受けた金額
  • 直系尊属から一括贈与を受けた結婚・子育て資金のうち、非課税の適用を受けた金額

配偶者特別控除を受けた贈与や、贈与の非課税枠を使用して、子や孫に対して教育資金や住宅資金を贈与した場合には生前贈与加算は行われません。

これら以外の贈与は、生前贈与加算期間に該当すると、全て相続財産へ加算しなければならないと理解しておきましょう。

生前贈与加算期間が3年から7年へ延長へ

2023年の税制改正によって、生前贈与の加算期間が3年から7年へと延長されます。

これまでは被相続人が死亡する3年以内の贈与は相続財産へ加算されてきましたが、改正後は「被相続人の死亡前7年以内」へと加算期間が延長されることになります。

加算期間の延長はいつからで、どのような財産が対象になるのか、詳しく解説していきます。

2024年1月1日以降の贈与から対象

生前贈与加算期間が7年になるのは2024年1月以降の贈与からです。

2024年12月31日までの贈与は、贈与を受けてから贈与をした人が3年超生存すれば相続財産に加算されましたが、2024年1月以降は贈与から7年超生存しないと、贈与を受けた財産が相続財産に加算されることになります。

生前贈与加算される金額

生前贈与加算期間の延長によって、生前贈与加算される金額は「亡くなる何年前の贈与か」に応じて次のように異なります。

贈与をした人が死亡する4年〜7年前 贈与をした人が死亡する3年前まで
贈与財産から100万円を除いた金額 贈与財産全額

贈与をした人が死亡する4年〜7年前の贈与に関しては贈与財産から100万円を除いた金額が生前贈与加算されます。

毎年110万円の非課税枠を使用して贈与をしているケースでは、贈与した人が死亡する3年以内は生前贈与加算されてしまいますが、3年超の贈与は生前贈与加算をほとんど気にすることなく非課税枠を使用して贈与することができます。

生前贈与の加算期間

生前贈与加算期間が延長されますが、制度改正によっていきなり加算期間が7年へ延長するわけではありません。

国は段階的に加算期間へ延長し、フルで7年の加算期間が適用されるのは2031年1月以降の相続からになります。

加算期間は次の通りです。

相続発生時期 生前贈与加算期間
2026年12月31日 3年
2027年1月1日〜2027年12月31日 最長4年
2028年1月1日〜2028年12月31日 最長5年
2029年1月1日〜2029年12月31日 最長6年
2030年1月1日〜2030年12月31日 最長7年
2031年1月1日〜 7年

例えば2027年中に被相続人が死亡した場合には、最長で4年以内の贈与が加算されます。

2031年までは加算する期間が毎年異なるので注意しましょう。

加算期間延長で相続税の支払いはどのくらい増える?

加算期間が延長されたことによって、相続税の支払いはどの程度増えるのか、次の条件でシミュレーションしてみました。

  • 被相続人:母
    相続人:長男のみ
    相続財産:2億円
    生前贈与:毎年100万円ずつ
  • ・加算期間3年の場合
    2億円+生前贈与加算300万円-基礎控除3,600万円=課税遺産総額1億6,700万円
    1億6,700万円×40%-1,700万円=相続税の総額4,980万円
  • ・加算期間7年の場合
    2億円+生前贈与加算700万円-基礎控除3,600万円=課税遺産総額1億7,100万円
    1億7,100万円×40%-1,700万円=相続税の総額5,140万円

加算期間が7年に延長されたことによって、相続税の支払いは160万円多くなりました。

相続税の税率は財産の金額によって異なり、相続財産が増えれば税率も高くなるので、相続財産が多い人ほど加算期間の延長によって負担する税額は大きくなるでしょう。

加算期間延長の背景

生前贈与加算期間が延長になった理由は主に次の3つです。

  • 中立的な税制を実現するため
  • 若年層への早期の資産移転を実現するため
  • 国際的な水準に近づけるため

国内の格差是正や若年層への資産移転などの政策目的があります。

また、加算期間を国際的な水準に近づけるためという目標もあります。

税制改正によって加算期間が延長された3つの理由について詳しく見ていきましょう。

「資産移転の時期の選択により中立的な税制」を構築するため

国は「資産移転の時期の選択により中立的な税制」を構築するために、生前贈与加算期間の延長を行うことを明確にしています

「資産移転の時期の選択により中立的な税制」とは、「資産を移転する時期に関係なく、資産を移転したのであれば、資産移転にかかる税金は一定であるべきだ」というような考えです。

相続開始前に駆け込みで贈与をすることによって、相続税の支払いを免れることができる今の制度は中立的とは言えません。

資産移転のタイミングに関係なく、資産を移転したのであれば、相応の税金を負担する制度へ変更するため、加算期間の延長は必要です

若年層への早期の資産移転を実現するため

駆け込みで贈与をするのではなく、被相続人が死亡する何年も何十年も前から、若年層への資産移転を進めるためにも、加算期間の延長は必要です。

「死亡する7年前までの贈与は、相続財産に加算される」と聞けば、多くの人は「早い時期から財産を子供や孫に移しておいた方がいい」と考えます。

そのため若年層への資産移転が早期に進む可能性があり、若年層は教育資金や住宅資金へ資産を使うことができ、少子化対策や経済の活性化へ繋げることができます。

国際的な水準に近づけるため

日本の生前贈与加算期間は世界の他の国と比較すると圧倒的に短くなっています。

生前贈与加算期間
アメリカ 一生涯(過去全ての贈与が相続財産として加算される)
フランス 15年
ドイツ 10年
韓国 10年
イギリス 7年

日本の3年という期間は圧倒的に短いため、国際的な水準に近づけるためにも、加算期間の延長は必要な措置だと考えられます。

生前贈与加算期間延長への対処法

生前贈与加算が延長されてしまったら、高齢の親などから贈与を受けてから7年以内に亡くなってしまったら相続税が課税される可能性が高くなります。

加算期間延長に備えるためには次の2つの方法があります。

  • 孫や子の配偶者へ贈与する
  • 2023年中に贈与する

生前贈与加算の期間延長への2つの対処法について詳しく解説していきます。

孫や子の配偶者へ贈与する

孫や、子供も配偶者など相続人以外の人物に贈与をすることで生前贈与加算を免れることができます。

生前贈与加算の対象になるのは、「被相続人から相続や遺贈により財産を受け取った相続人」です。

つまり、法定相続人以外の人への贈与は生前贈与加算の対象にはなりません。

子供がいる場合は孫への贈与は生前贈与加算の対象にはなりませんし、子供の配偶者も生前贈与加算の対象ではないので、もしも加算期間内に死亡しても相続財産に加算されることはありません。

ただし、子供の方が先に亡くなり孫が代襲相続する場合、子供の配偶者を遺言で相続人に指定している場合、子供の配偶者が養子縁組している場合に、生前贈与加算の対象になるので注意しましょう。

2023年中に贈与する

生前贈与加算期間の延長前である2023年中に贈与をすれば加算期間は3年です。

「2024年以降に贈与しよう」という予定の財産がある場合には、2023年中の贈与へと前倒しした方がよいでしょう。

ただし、110万円の非課税枠を超えて贈与をした場合には、相続税よりも税率が高い贈与税の支払義務が生じて、結果的に税負担が多くなってしまうこともあるので、相続税の支払額と贈与税の支払額をよく比較した上で贈与を行ってください。

2023年税制改正のそのほかの変更項目

2023年の税制改正では、生前贈与加算の期間延長の他にも次のような変更が行われました。

  • 相続時精算課税制度
  • 教育資金の一括贈与
  • 結婚子育て資金の一括贈与
  • 空き家特例

いずれも相続や贈与と大きく関わりがあるものですので、詳しく見ていきましょう。

相続時精算課税制度

相続時精算課税制度とは、相続人に対する贈与について累計で2,500万円までは贈与税を非課税として相続財産として被相続人が死亡後に相続税を課税する制度です。

この制度と年間110万円の贈与税控除(贈与に対する非課税)を併用することは不可能でしたが、税制改正によって、相続時精算課税制度と年110万円の贈与税控除を併用できるようになりました。

今後はさらに親か子へ財産移転がしやすくなります。

教育資金の一括贈与

この制度は「子や孫へ教育資金を一括贈与する場合、1,500万円までは贈与税が非課税」というものです。

この制度は2023年3月末までと期限が決められていましたが、期限が3年延長されて2026年3月末までとなりました。

結婚子育て資金の一括贈与

結婚子育て資金の一括贈与とは「子や孫へ結婚や子育ての資金を一括贈与する場合、1,000万円までは贈与税が非課税」になる制度です。

この制度も2023年3月末までと期限が決められていましたが、期限が2年延長されて2025年3月末までとなりました。

空き家特例

空き家特例とは「相続や遺贈により受け取った被相続人の居住用家屋・敷地などを売却したときに生じる金額に対して、3,000万円までの控除が適用される」というものです。

この制度が適用されるには2023年12月31日までに売却しなければなりませんが、制度改正によって2027年12月31日までに売却した住宅が適用を受けられるように延長されました。

まとめ

  • 生前贈与加算とは、被相続人からの贈与について、被相続人死亡時に相続税の課税対象とするというもの
  • 2023年税制改正によって生前贈与加算期間が3年から7年に延長
  • 課税に対処する方法としては孫や子の配偶者へ贈与することや2023年中に贈与するといった方法がある

税制改正によって生前贈与加算期間が3年から7年に延長されました。

これまで、高齢の親が生きている間に駆け込みで贈与を行い相続財産を減らすということはよくありましたが、今後は駆け込みの贈与が難しくなります。

教育資金や結婚子育て資金の贈与については、期間が延長されていますので、早いうちから計画的に子供や孫へ資産を移し、相続税の支払いを抑えるようにしましょう。

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