抵当権抹消登記申請書とは、住宅ローンを借りるなどで自宅に付けられた抵当権(担保のこと)を外す(抹消)ため法務局に依頼する(申請)ために必要な書類のひとつです。
抵当権付きの不動産の売却を検討しているが、
「売却前に抵当権を抹消したほうがいいと聞いたのでやり方を知りたい」
「抵当権はローン完済しても自動で消えないと聞いたので、手続き方法を知りたい」
この記事にたどり着いた方の中には、こんな疑問や不安を抱えている人もいるでしょう。
そこで今回は「抵当権抹消登記申請書とは?」をテーマに、抵当権などの不動産担保に長年携わってきた銀行員が解説していきますので、ぜひ参考にしてください。
- 抵当権の基本事項と注意点
- 抵当権抹消登記は自分でできる? それともどこに依頼するの?
- 抵当権抹消登記申請書の説明
- 抵当権抹消登記申請書の入手方法や書き方と、申請に必要な書類
- 抵当権があるマンションを売るとき、スムーズに抵当権抹消する方法
抵当権の基本事項と注意点をおさらい
抵当権抹消登記申請書の説明に入る前に、まず抵当権をおさらいしておきましょう。
抵当権とは?
抵当権とは担保のことです。
以前はよく
「お金を借りるため、土地を抵当に入れた」
「あの家は借金と抵当で取り上げられた」
と使われ、少しネガティブな響きもありました。
しかし抵当=担保とは「将来生じる可能性がある不利益に備え、それを補う不動産(物的担保という)や保証人(人的担保)で保証すること」で、一般に広く通用しています。
抵当権について、そのほか簡単に解説します。
抵当権とは?
• 銀行融資の抵当権(担保)は、債務者(お金を借りた人)が債務を履行しない場合に備えて債権者(お金を貸した銀行など)に担保として提供される。そして債務が弁済されない場合は、強制的な売買である「競売(ケイバイ)」で回収を図る
• 抵当権には根抵当権もある(根抵当権は抵当権の一種であり、裁判など法律用語で用いる場合は抵当権でくくられる)。根抵当権は、1億円など一定の限度額(極度額という)を決め、その枠内なら登記をせず何度でも反復利用できる抵当権のこと(カードローンの利用限度に近いイメージ)
いつでも利用できる反面。根抵当権は抹消登記をしない限り、その効力は維持される
• 抵当権は住宅ローンなど、ひとつの融資に限定してヒモ付けられた担保
• 抵当権では対象の借り入れが無くなれば担保の効力は消滅する
下線を引いたポイントは、抵当権は対象の借り入れが無くなれば担保の効力は消滅するという点です。
しかし消滅と言っても抵当権は自然消滅しないので注意が必要です。
抵当権は自然消滅しない
対象借入れが終わっても、抵当権は自然消滅しないので、なにもしなければずっと残ったままになります。
また銀行などが親切に抵当権を消してくれるようなこともなく、お金を借りた本人が動かなければいけないのです。
そのため、抵当権を消滅させる手続きが「抵当権抹消登記」で、その必要書類が「抵当権抹消登記申請書」なのです。
抵当権抹消登記における関係者は次のように表現されます。
- 登記権利者:抵当権の目的となる不動産の所有者(債務者などお金を借りた側)
- 登記義務者:抵当権者(銀行などの債権者、抵当権を付けていた側)
この表現からわかることは
「借金が無くなったら、債務者は抵当権抹消登記をしてもらう権利がある(登記権利者)」
「抵当権を付けていた銀行は登記権利者から依頼された場合は抹消登記に応じる義務がある(登記義務者)」
ということです。
ただし、あくまで抹消登記に応じる義務があるだけで、登記義務者には抹消登記をする義務はないので、本人が動く必要があるのです。
(注)「債務者」について
抵当権抹消登記では不動産の持ち主=所有者が登記権利者になります。
例)父名義の土地で住宅ローンを借りた場合、不動産の持ち主である父が登記権利者になります。
(参考:父はローンの担保を提供してくれた人:「抵当権設定者」とも呼ばれる)
この記事では表現をシンプルにするため、本人が不動産の所有者のパターンで構成していますので、本人=所有者=登記権利者=抵当権設定者とイメージしてください。
抵当権抹消をしなくても銀行は困らない、困るのは本人
借入を完済したあとに抵当権の抹消をしないと困るのは本人で、銀行は困りません。
上記『抵当権は自然消滅しない』で「銀行は登記権利者から依頼された場合は抹消登記に応じる義務がある(登記義務者)」と説明した通り、あくまで登記権利者から依頼された場合に限り応じる義務があります。
これを言い換えると、もしあなたが登記義務者なら「あなたから銀行に頼まない限り、いつまでたっても抵当権は無くならない」ことになります。
また、放置していればいつまでも残るだけでなく、抵当権抹消登記はできるうちに済ませておかないと、あとで困ることがいくつもあるのです。
抵当権抹消をしないと起こる「困ったこと」
抵当権抹消登記はできるうちに済ませておかないと、しかも時が経つほど「困ったこと」が起こる場合があります。
銀行員として、私も遭遇した経験から解説します。
引っ越しや住所変更があると費用や手間が増える
抵当権があった家から本人が転居したり、自己都合で住民票上の住所を移したりしていると、抵当権抹消登記をするとき「所有者の住所変更登記」も必要になり、手間と必要書類と費用が余分にかかります。
(数万円程度費用が上乗せされます)
死亡すると大変
不動産所有者の本人が死亡した、あるいは住宅ローンで抵当権がついていたのは親の土地でその親が死亡した場合などは手続きが大変になります。
原則として不動産の相続名義変更が終わるまで抵当権抹消登記はできません。
相続税が発生しない家族の場合、相続名義変更がされずにそのままといったケースもあり、抵当権抹消登記が必要になった時にトラブルの原因にもなりかねません。
(曾祖父が明治時代に借りた抵当権の抹消に半年以上かかり、ローン手続きも伸びてしまった:銀行員として私の経験談)
銀行の合併や消滅があると困ることもある
金融機関の合併や消滅なども、現在はよくあることで、抵当権を付けていた金融機関が合併したり消滅していた場合は、合併後の金融機関に抵当権抹消を依頼することになります
一般の人はどこに相談したらいいか?と困ってしまい手続きが進まなくなります
特に金融機関が破綻などで消滅していた場合、受け皿となった金融機関にたどり着くだけでも相当に苦労する場合もあります
(銀行も協力したが、消滅した金融機関からの書類を入手するため官公庁にまで問い合わせをして、結局1年以上の時間を要した:銀行員としての私の経験談)
抵当権抹消は自分でできる?
このように困ったことが起こらないように、抵当権抹消登記は早く済ませておくべきです。
抹消の義務はない解説はしましたが、それでも一般に銀行側は、ローンの完済などがあると「抵当権の抹消はどうされるお考えですか?」と訪ねてくれるものです。
これは、上記したように抵当権抹消をせずにあとから困った顧客から
「なぜローンが終わった時に、抵当権抹消のことを教えてくれなかったんだ!」
と苦情になることがあるからです。
実は、私もこのような苦情を受け付けたことがあり、(もちろん抵当権抹消の説明義務が銀行に課せられているわけではありませんが)結局は対応の不手際をお詫びしたうえで手続きをしました。
このような理由から、金融機関では将来のトラブルを防ぐため、ローンの完済などで抵当権が抹消できる顧客に対しては、手続きをおすすめするようにしています。
この場合、一般的には銀行が取引している司法書士を紹介したり、顧客が自分で司法書士を探したりなど、専門家に手続きを依頼することになります。
料金としては数千円〜数万円までで、不動産の物件数(筆という)などにより値段が変わってきますが、抵当権を付ける(設定登記)よりは安くなりますし、なにより確実に手続きをしてくれるので安心です。
とはいえ、司法書士ではなくても、物件所有者本人(抵当権設定者=登記義務者)なら自分で法務局に行き手続きすることができるのです。
司法書士など専門家に頼む場合と比べ、手数料(報酬と呼ぶ)がかからないので安上がりになります。
このように抵当権抹消登記を自分で行う時に必要なのが、抵当権抹消登記申請書です。
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抵当権抹消登記~手続きの流れと必要書類
では次に、抵当権抹消登記の手続きの流れと必要書類を説明していきます。
ここでは自分で手続きするイメージで解説をしますが、司法書士に依頼する場合も基本的な流れは同じです。
抵当権抹消登記~手続きの流れ
まず、手続きの流れをフローチャートでまとめました。
必要書類の準備
抵当権抹消登記に必要な書類を準備しないと申請ができません。
必要な書類は市役所などで自分が取れるもの、銀行などから提供されるものなどいくつかに分かれます。(参考1 なお必要書類は本文下部で詳しく説明)
抵当権抹消登記申請書の作成
抵当権抹消登記申請書も必要書類で、かつ最も重要なもので、必要事項を自分で記入し作成します。(記入方法の説明は本文下部で詳しく説明)
抵当権抹消登記の申請
法務局に行き、抵当権抹消登記申請書やその他必要書類を提出します。
なお現在は抵当権抹消登記のオンライン申請も可能です。(参考2)
費用を支払う(登録免許税の納付)
登記に必要な費用は「登録免許税」という税金を納付(納税した領収書または収入印紙を申請書類に貼付)する形で支払います。
抵当権抹消登記では不動産1つ(1筆・いっぴつ、ひとふで)に対し1,000円が必要です。
例)土地1筆、建物1筆の抵当権抹消登記の登録免許税は2,000円(参考1)
登記完了後の書類を受け取る
登記が完了したと連絡があったら、完了後の書類を法務局で受け取り手続きは完了です。
なお必要書類のなかで金融機関に返却が必要なものなどは、忘れずに必ず返却します。
(この点についても必要書類の項で説明)
(参考2)
法務局/不動産登記申請手続/住宅ローン等を完済した(抵当権抹消の登記をオンライン申請したい方)
抵当権抹消登記の必要書類
抵当権抹消登記には以下の書類が必要になります。
なお手続きにより必要・不要な書類がありますので、必ずご自身で法務局などに確認してください。
抵当権抹消登記申請書
他の申請書類とともに、法務局HPからダウンロードが可能(参考3)
登記原因証明情報
登記原因証明情報は「登記する原因を表す書類」のことで、抵当権抹消がその原因です。
抵当権抹消登記の登記原因証明情報は「抵当権解除証書」などで、ローンが完済になると金融機関から郵送などで返却されるが、急ぐ場合は金融機関窓口で受け取ります。
登記識別情報
登記識別情報(正式には登記識別情報通知)とは登記済証(いわゆる権利書)に変わるもので、登記の内容などが記載された書類のことです。
抵当権を設定したときも、その事実が記載された登記識別情報が発行され、ローンが完済になるまで抵当権者の金融機関が保管しています。
こちらも抵当権解除証書と一緒に金融機関から返却されます。
(大昔の担保などでは、登記識別情報ではなく「登記済証」になる場合もある)
委任状
金融機関など抵当権者の委任状が必要で、金融機関から借り受けます。
なお司法書士に依頼する場合は、自分が委任状を書いて渡せば手続きは任せられます。
(自分で手続きする場合、司法書士への委任状は不要)
資格証明情報(「資格証明書」とも)
金融機関が、その代表者の資格を証明する書類のことで、金融機関から借り受けます。
(金融機関の登記事項証明書、いわゆる商業登記簿謄抄本で可能な場合も)
変更証明書
金融機関の商号などに変更(合併や消滅等も)があった場合のみ必要となる閉鎖登記事項証明書,閉鎖登記簿謄本などインターネットや法務局で取得できます。
その他必要書類
自分が住所変更した場合などでは、住民票または戸籍が必要になる場合もあります。
(参考3)
法務局/不動産登記申請手続/不動産登記の申請書様式について
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抵当権抹消登記申請書~記入方法と注意点
続いて、抵当権抹消時申請書の記入方法と注意点を説明します。
抵当権抹消登記申請書の記入方法
自分で抹消手続きをする場合、抵当権抹消登記申請書も自分で作成することになりますが、下記に引用した法務局の記入例を参考にすれば、それほど難しくはありません。
なお法務局のダウンロードページにはPDF以外にワードテキストもあり、自分で加工印刷することも可能です。
また一般的な住宅用の申請書のほかに「敷地権付き区分建物」としてマンション向けの申請書も用意されています。
抵当権抹消登記~自分で手続きするときの注意事項
自分で抵当権抹消登記をするときには、注意すべき点もいくつかあります。
自分で手続きするときは時間をかけてはいけない
たとえば住民票や金融機関の資格証明などは有効期間(発行から3カ月以内が原則)が過ぎると使えなくなります。
銀行に返す書類の取扱いは要注意
仮受けた資格証明を無くして閉まった場合、再発行は金融機関に敬遠されます。
(実際はイヤイヤ対応してくれるが 手数料を取られる可能性もある)
その他、金融機関から返却された書類(抵当権解除証書など)も、手続きしないで紛失した場合には再発行に時間をとられ、こちらも費用を請求される場合があります。
ちなみに書類の紛失について、これは私の実体験です。
あるお客様が、書類をなくしてしまい(しかも何回も)取りに来るので、疑わしいと調査も必要になりました。
(幸い、このケースは本当に無くしたとわかり、最後はなんとか手続きできました)
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まとめ〜費用面だけならリスクも考えて選択を
- 抵当権(担保)とは、債務者(お金を借りた人)が債務を履行しない場合に備えて債権者(お金を貸した銀行など)に担保として提供される権利のこと。
- 抵当権は借金がなくなっても自然と消えることはないため、早めに自分で動く必要がある。
- 司法書士にお願いする場合と、自分で手続きをする場合には数千から1万円程度の費用の違いがあるため、リスクと手間、取られる時間を考慮して選択することが大切。
今回の記事では自分で抵当権抹消登記をする方法を、抵当権抹消登記申請書の説明を中心にお話ししてきました。
ここまで述べたように、自分で手続きするにはいろいろとリスクも伴うことがお分かりになったと思います。
だから手続きは早くするべきです。
また「司法書士に委任する場合と、自分で手続きする場合の費用面の違いは数千円から1万円程度なので、リスクと手間、そして取られる時間を考えて選択して欲しい」
銀行員はそう考えています。
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