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借地権がついているマンションの売却はむずかしいと聞いたけど、ホントなの?
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はい、確かに借地権があるマンションの売却に注意点はありますが、決して困難ではありませんし「面倒だから、人がやりたがらないからチャンス」とも考えられるのです。
私は勤続30年の銀行員で、お金に関する情報発信をしたいとライターもしています。
銀行員として借地権付きの不動産売買にも関わっていました。
そこで今回は借地権があるマンションの売却について、わかりやすく解説したいと思います。
- 借地権付きのマンションはふつうに売却できるの?
- 借地権付きマンションをスムーズに売却するコツは?
- そもそも借地権ってなに?
キーワード検索でこの記事にたどり着いた人は、抱えている疑問や知りたい内容も様々だと思いますが、でも、大丈夫です。
この記事を読めば
「これまではわからないことだらけだったけれど、全体像やポイントがわかったので不安はなくなった」
「知らないことが多くて、敬遠してきた借地権付きマンションへの投資も、具体的に動き始めることができそう」
そんな気持ちになってもらえるよう、銀行員の知識と経験を全力投球しますので、ぜひ参考にしてください。
借地権付きマンションを売却する~借地権を知る
借地権付きマンションの売却を考えるために、まず借地権についてお話しします。
「今さら聞けない」といった基礎的おさらいになりますので、借地権を知りたい人には参考になりますし、詳しい人は知識のブラッシュアップとしてください。
借地権とは
借地権とは「地代を支払うことで、建物を建てる土地を借りることができる権利」のことです。
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 借地権 建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう。
二 借地権者 借地権を有する者をいう。
三 借地権設定者 借地権者に対して借地権を設定している者をいう。
四 転借地権 建物の所有を目的とする土地の賃借権で借地権者が設定しているものをいう。
五 転借地権者 転借地権を有する者をいう。
e-Gov法令検索/借地借家法/第一章総則/第二条(定義)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000090_20220525_504AC0000000048
なお「地上権」とは工作物等(建物、道路、橋、水路、ゴルフ場、地下街など)を建てるために他人の土地を使用する権利で、この目的に建物が含まれています。
また「賃借権」とは、契約に基づいて目的物を使用収益(使うこと)する権利で、地上権、賃借権ともに民法に規定されています。
用語ばかりだとむずかしくなるのでこのくらいにして、
「借地権とは建物を建てるために土地を借りて使用する権利で、借地借家法という法律で定められている様々な権利と決まりごと」
とまとめておきましょう。
ここでのポイントは、借地権は建物を所有する土地の権利のことで、マンションもここに該当するわけです。
借地権の種類
借地権には「定期借地権」と「普通借地権」の2種類があり、定期借地権は更に複数に分かれます。
なお普通借地権は「定期借地権以外の借地権」と表現されることもあるので、まず定期借地権から説明することにします。
一般定期借地権
平成3年に土地や建物の賃貸借に関して大きな法改正があり、ここで制定された借地借家法により、それ以前の法律(借家法、借地法)に比べ、賃貸人(地主や大家・貸す人)と賃借人(店子や借地人、借家人・借りる人)との力関係を平等にするため、というよりも「借りる側の権利保護を重視」した法設計になりました。
以前の借地権(旧借地法、旧法などとも呼ぶ)との大きな違いは
- 契約の更新
- 建て替えによる契約延長
- 最後に建物をどうするか
この3点について法律で明記し、その結果定期借地権が誕生し、さらに上記3点に関する違いから定期借地権が細分化されることとなったのです。
一般定期借地権では存続期間(借地の契約期間をこう呼びます)を50年以上とすることを条件に以下3つの特約
- 契約の更新をしない
- 建物を建て替えても期間の延長をしない
- 契約期間が満了しても、借りている人から地主に建物の買取請求をしない
を定めた書面(公正証書)で契約をするのが原則となりました。
これにより、借地権は更新されることなくいつか必ず終了し、土地は地主に返還されることになります。
ここで言う定期とは、通学定期券などと同じように期限が決められているという意味で、つまり定期借地権とは無期限ではない借地権とも言えます。
事業用定期借地権
事業用定期借地権とは事業用の建物を目的とした借地権で、存続期間は10年以上50年未満であり、契約期間により取扱いが違う点と、居住用の建物には使えない点が特徴です。
そのほか特徴を並べると
- 存続期間が10年以上50年未満の場合は一般定期借地権と同じ特約、つまり
- 契約の更新をしない
- 建物を建て替えても期間の延長をしない
- 契約期間が満了しても、借りている人から地主に建物の買取請求をしないという3つが適用される
- 契約は公正証書が必須
- 存続期間が30年以上なら建物譲渡特約借地権(後述)も併用が可能
となります。
なお借地借家法は数回の法改正があり、事業の用途で借地権を利用する場合には、その存続期間が「10年以上50年未満なら事業用定期借地権」「50年以上なら一般定期借地権」と使い分けられるようになっています。
建物譲渡特約付借地権
建物譲渡特約付借地権とは契約後30年以上経過したら、地主が土地上の建物を買取ることを約束した借地権のことです。
ややわかりにくい表現なので、まずは法律の条文をそのまま見てください。
建物譲渡特約付借地権
第二十四条 借地権を設定する場合(前条第二項に規定する借地権を設定する場合を除く。)においては、第九条の規定にかかわらず、借地権を消滅させるため、その設定後三十年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる。
e-Gov法令検索/借地借家法/第二章第四節/第二十四条(建物譲渡特約付借地権)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000090_20220525_504AC0000000048
「借地権を消滅させるため、その設定後三十年以上を経過した日に借地権の目的である土地の上の建物を借地権設定者に相当の対価で譲渡する旨を定めることができる。」という部分を言い換えると
建物譲渡特約付借地権とは「30年経ったら建物を買い取る(建物譲渡)から、「その代わりに契約は終了するね」という約束をした(特約付)定期借地権
となります。
そのほかの特徴としては
- 契約は口頭でも可能だが、あとあと揉めないよう書面で契約するのが一般的
- 建物買い取り後も、借りている人がそのまま建物を使いたいと希望して地主も納得すれば、今度は借家の契約を結ぶことも可能
- 維持管理状態が良くないなどの理由で地主が建物の買取りをしない場合には、借地権が消滅することなくそのまま継続することになる
- 一般定期借地権または事業用定期借地権を併用していた場合、地主が建物を買取らなかったとしても存続期間が終わればで借地権は消滅し、建物を取り壊して、更地で返還することになる
普通借地権
定期借地権の冒頭部分で触れましたが
「以前の借地権(旧借地法、旧法などとも呼ぶ)との大きな違いは
- 契約の更新
- 建て替えによる契約延長
- 最後に建物をどうするか
この3点について法律で明記し、その結果定期借地権が誕生し、さらに上記3点に関する違いから定期借地権が細分化されることとなった」
というとおりで、普通借地権値は法改正前の、昔からあった借地権のことです。
したがって、
- 普通借地権とは、定期借地権以外の借地権のこと
- 普通借地権は契約の更新が可能
- 普通借地権の存続期間は、当事者が納得して特約を結べば30年以上も可能
- 存続期間の特約がなければ、原則として存続期間は30年で、仮に5年や10年などといったように、30年より短い契約は無効となる
- 建物が存在する限り、地主が一方的に契約解除し立ち退かせることは不可能
- また借りている人が建物を再建築し、それを地主も承諾すれば承諾の日(または再建築日のどちらか早い日)から20年間、借地権が自動延長される
- 契約は口頭でも可能
このように普通借地権は、当初の契約で決めた存続期間で契約が終わるとは限らず、原則として建物が存在していれば半永久的に借地権の継続も可能なので、つまり「定期ではない」借地権だと言えるのです。
マンションの借地権は「定期借地権」
分譲マンションの借地権は基本的に定期借地権です。
もちろん普通借地権付マンションもありますし、公的な統計資料などは探せませんでしたが、銀行員の仕事として数多くのマンションに携わった経験でも、普通借地権付きマンションは見たことがありません。
その理由は以下のとおりと考えられます。
1. そもそも分譲ではなく借地権付マンションにするのは、地主がその土地を手放したくないから
2. 契約延長できる普通借地権では、いつになったら土地が戻るかわからない
3. そのため、タイムリミットを設定できる定期借地権にする
といった論法だと考えられます。
ところで、この「土地を手放したくないから借地」という部分がマンションの価格に大きく影響します。(この点は後半で詳しく触れます)
借地権の一覧表
ここまで説明してきた借地権について、整理するために一覧表でまとめました。
定期借地権 | ||||
---|---|---|---|---|
普通借地権 | 一般定期借地権 | 事業用定期借地権 | 建物譲渡特約付借地権 | |
存続期間 | 30年以上 | 50年以上 | 10年以上50年未満 | 30年以上 |
契約の方法 | 口頭でも可 | 公正証書 | 公正証書 | 口頭でも可 |
利用の制限 | 制限なし | 制限なし | 事業用建物に限る(居住用は不可) | 制限なし |
借地契約の終了 | 更新可能 拒否するには正当な事由が必要 |
期間満了で契約終了 | 期間満了で契約終了 | 建物譲渡で契約終了 |
契約終了後の建物は? | 原則として建物が存在する限りは半永久的に借地権の継続が可能 | 原則として建物は取り壊し、更地にして土地を返す | 原則として建物は取り壊し、更地にして土地を返す | ・地主による買取 または ・建物を残したまま土地を返す(借家として再契約も) など選択肢がある |
借地権付きの物件が売れないと言われる理由
ここまでは借地権について基本的な説明をしてきました。
続いて、これらを参考に本題へ入っていきます。
まず一般に「借地権付きの物件は売れない」と言われていますが、その理由を考えてみたいと思います。
借地権付きの物件が売れないと言われるのは以下3つの理由があります。
1. 自分のものではないので、永住もできない
2. 地代などのランニングコストが「足かせ」になる
3. ローンを借りるハードルが高くなる
理由1.自分のものではないので、永住できない
まず何と言っても、借地権付き物件は自分のものではないので、永住できないことがあげられます。
もちろんマンションの定期借地権は法律に裏打ちされた権利です。
しかしながら、いつかは地主に返さなければならず(所有権を持てない)自分のものではないとも言えるのです。
ですから、大金を払っても自分のものにできないと敬遠される可能性はあります。
また、上記したような売却の問題だけでなく、永住できないということは、将来的に存続期間が終わりマンションを返却することとなった場合、次に住むところを探さなければいけません。
定期借地権では存続期間が数十年という長い時間ではあっても、必ずいつかはそのタイムリミットが来ることを考えておく必要はあります。
なお定期借地権を中心に説明しましたが、これは普通借地権でも同様です。
なぜかと言えば、契約の更新が可能とはいえ普通借地権も借地であることに変わりはなく、いつの日か物件を手放さなければならない可能性は残っているわけです。
したがって、引き続き定期借地権としての説明を続けますが、普通借地権でも同じレベルで売れない理由や、次項のメリット・デメリットがあると考えてください。
理由2.地代などのランニングコストが「足かせ」になる
定期借地権付きマンションでは、管理費や共益費といったマンション特有のランニングコスト以外に、借地なので地代が常に必要なランニングコストになります。
自分や家族が住み続ける場合も、常に地代の支払いを考えて生活していくことになります。
またこちらは売却でも同様で、売買価格以外のランニングコストはマンションの売れ行きを左右する大きな要素です。
したがってランニングコストに上乗せされる地代が売却の「足かせ」になってしまう可能性があります。
理由3.ローンを借りるハードルが高くなる
原則として、銀行は借地を担保にお金を融資しません。
それはなぜかと言えば「担保とは、返済できなかったら売却して融資回収に充てるのに、借地ではお金を貸した人から物件を取り上げられないから」という、ある意味で非常にシンプルな理由があるからです。
したがって定期借地権付きマンションの場合。購入費用でローンを借りるハードルが高くなります。
しかし「ハードルが高くなる」と表現したのは絶対にムリとは限らないからです。
ローンや融資の審査では、もちろん担保は重要ですが、それ以外に担保にできる物件(自己所有の不動産や実家の土地建物など)があれば融資が通る可能性は高くなります。
もちろん、そのような不動産がある人ばかりではありません。
しかし、年収や勤務先、本人と家族の金融資産など多角的に判断するのでローン審査なので、借地権付きマンションだから融資はムリとも言い切れないのです。
ちなみに私の勤務する銀行でも、借地権付きマンションにローンを融資しています。
融資ができるか?はケースバイケースですが、やはり年収が高いなどプラス要素がある人なら審査を通る可能性が高くなっています。
借地権付きマンションを売却する~メリットとデメリット
では次に、借地権付きマンションを売却するときのメリットとデメリットについて説明します。
この項では、ここまでの説明と重複する部分もありますが、それだけ重要なので深掘りしてお話ししていきます。
メリット1.割安で購入できる
購入して自分のものにする所有権と違い、いつかは返さなければならない借地権付きマンションでは、購入価格が割安になる傾向があります。
- 定期借地権の存続期間が終われば物件を地主に返すことが決まっている
- タイムリミットがあり、永住できない
- 土地購入(マンションでは「所有権」または「敷地権」)費用が係らない
こういった理由で、一概には言えませんが所有権マンションの相場より2〜3割程度、あるいはさらに割安価格で購入できる点が最大のメリットです。
メリット2.土地の税金がかからない
借地なので、当然土地の税金(土地に対する不動産取得税や固定資産税など)がかかりません。
いっぽうでは地代が必要なので、費用はトータルで考える必要があります。
メリット3.好立地、人気の場所に住める
繁華街に近い、または駅近などの好立地にある土地は、地主も手放したくないものです。
そこでこうした土地を定期借地権付きマンションにするケースがあります。
代表的なのが、寺社仏閣など昔から土地に住んできたので、駅近の好立地な場合があります。
こうした神社仏閣の土地(境内地と言います)のマンションは人気も高く、それでいて定期借地権なので割安となるので、契約途中で手放すときには値上がりも期待できる場合があります。
デメリット1.永住はできない
「借地権付きの物件が売れない理由」でも触れましたが永住できない点は大きなデメリットです。
なんといっても「数百万円~数千万円といった大金を支払っても自分のものにはできず、毎月地代を払い続け、そして期限には出ていかなければならない」
ネガティブな表現ではありますが、これも事実です。
デメリット2.地代が必要になる
借地権付きマンションは、借地である以上地代を支払い続けなくてはいけません。
この事実も経済面と心理面で大きな負担になるかもしれません。
存続期間が何年残っているかを考え、こうした借地権付きマンションのデメリットとどこまで付き合い続けられるか?が購入を決めるポイントでもあります。
デメリット3.売却価格が安くなる可能性あり
定期借地権付きマンションを手に入れたあと、売却することになった場合、何年住んだか?で、残りの存続期間までの年数によっては売却価格が安くなってしまう可能性はあります。
たとえば50年の定期借地権付きマンションを、築10年で自分が手に入れたら残りの存続期間は40年です。
購入するとき40年でも、そこに20年住めば残りの存続期間は当然20年になります。
借地権付きマンションを手に入れた瞬間から、存続期間というタイマーがスタートし、時間が経つほど売値は安くなっていくのです。
メリット
- 割安で購入できる
- 土地の税金がかからない
- 好立地、人気の場所に住める
デメリット
- 永住はできない
- 地代が必要になる
- 売却価格が安くなる可能性あり
借地権付きマンションを売却する~売却のコツ
借地権の基本事項と、メリット・デメリットも理解したうえで、ここからは借地権付きマンションを上手に売却するにはどうしたらいいか?そのコツについてお話ししていきます。
売却のコツ1.余裕を持ったスケジュール
借地権付きマンションに限ったことではありませんが、不動産の売却では時間制限があると価格は下がりますし、条件も不利になります。
「家庭の都合で、どうしても年内に転居しなければいけなくなった」
「ローン返済に困り、すぐにでも売らないと破綻してしまう」
といったように、売る側に売らなければいけない事情やタイムリミットなどがあれば、価格交渉でも強く主張はできなくなってしまいます。
もちろんいつなんどき、なにが起こるか予想はできないのですが、売却に迫られそうだと感じたら、時間的な余裕があるうちに、行動を起こすことが重要です。
「尻に火が付いた売買」は足元を見られてしまいます。
売却のコツ2.好立地を「ウリ」にする
所有している借地権付きマンションが好立地なら、それを「ウリ」にして値上がりを待つことも可能です。
実際に、都心の一等地にある定期借地権付きマンションが販売開始時より数倍の価格に跳ね上がったケースもあります。
コツ1でお話ししたような自己都合がなければ、好立地をウリに気長な売却計画を立てて、値上がりを楽しみながら待つことも可能です。
売却のコツ3.頼れる業者を探す
なんといっても不動産の売却では、頼れる業者に出会えるかどうか?が成功のカギになります。
少しでも有利な条件で売却できるように段取りできる業者、あるいは自社で買取も可能で親身になって付き合ってくれる「頼れる業者」を探すことが重要です。
まとめ
今回は
- 借地権の基本事項
- 借地権付き物件が売れない理由
- 借地権付きマンションのメリット・デメリット
といった内容でお話ししてきました。
記事を読み終えたあなたが
「わからないことだらけだったけど、借地権付きマンションの全体像とポイントがを把握できたので、少し安心して検討できるようになった」
「借地権付きマンションを売却するコツも参考になり、明日からすでも動き始められそう」
このように感じていただけたら幸いです。